氷柱

『願い事』
初詣のときからいつまで有効なのかしら。
覚えてる?
今年初めての願い事。
無病息災を誓ったところで
全部きれいに忘れて
薄着のままこたつで寝転がっていたら意味がないのよ。
私が一番望んだことは
意味のわからないお祭り騒ぎで
貴重な時間を浪費することがありませんように、
ではないけれど
今になって思えば
にぎやかなことが妙に好きな私たちの家族だと
どうせ叶わない無駄な祈りだと知っていても
願い事の最後に気持ちだけでもついでにひとつ付け加えて
せめてあんまり
はめを外しすぎることなく
節度だけは保っていられますように、
はちゃめちゃな盛り上がりだけで
理性と良識が打ち砕かれることがないようにと
一言でも心に刻んでおけば
何かが違ったのかもしれないのに。
どうせ未来を左右するのは
姿も見えず近くにいるのかどうかもわからない神様ではなく
頼れるのは己の腕だけなんだから
自分の胸に改めて誓うというなら
お正月の行事の一つとして
まあせっかくみんなが誘ってくれたんだから
すぐ迷子になりそうな小さい子の世話を見るついでに
形だけでも手を合わせてみてもいいと思った
一月一日、
何か特別な日付のような気が少しだけした
あの時から
もう一ヶ月。
早くも願いは叶わず
お風呂上りに髪を乾かすのも忘れてテレビの前に駆けつけて
アニメの続きが気になる子供たち。
知っていたわよ。
流れ星を見つけても
七夕の短冊も
クリスマスツリーに飾られたふわふわの赤いブーツでさえも
魔法の力はない。
でも私は
だからといって
決して叶うわけがないから
願ってはいけないなんてどうしても言えなくて
麗ちゃんが何やら怒って帰ってきて
バレンタインなんてなくなってしまえばいいのにって布団をかぶってふてくされるのを
別に何も理由を聞かないで
もしも心から本当にそう思ったなら
私だけは許してあげたい、
そういう願いがあってもいいと
認めることができるなら──
生まれてからずいぶん
妹たちと比べたら多少は年を重ねて
決して叶わない願いばかりで
結局いつも泣いてばかりいた小さい頃を思い出しながら
きっと叶うなんて気休めも言わずに話を聞いて
みんなには間違っているってびっくりされるかもしれないけど
別にいいじゃない、
私は間違っているともあきらめろとも絶対に言わないわ──
そう伝えたかったけれど
話す機会もなかったから
麗ちゃんが懐いている小雨ちゃんにでも話をしておくわ。
世界がどんな風にできていたって
叶う願いとそうでないとが白黒はっきり分かれているとしても
あなたの姉の氷柱は
みんなに合わせればいいじゃないなんて
最後まで絶対に言いたくないと
そう思っているということ。
さて。
ここまで言ったら
下僕にも話はわかるわよね?
ユキが楽しみにしているみたいだからバレンタインを禁止になんてしないけど
我が家でたった一人の男性が
浮かれすぎないで
冷静でいてくれたら
状況はだいぶ変わるはずだわ。
期待するだけ無駄だとしても
言っておくだけなら
まあ、神様に手を合わせるのと同じで
そんなにたいした労働でもないから。
こういうのを
だめでもともと、って言うのよ。
覚えておきなさい。