ヒカル

『ヘルプ』
最近、麗が
難しい顔で勉強をしているみたいだったり
ノートの文字の上にペンで丸をつけたりペケをつけたり
突然いいことを思いついたみたいににやにやしたり
やっぱりだめだってつぶやいてころがったり
とんだりはねたり
おやつを食べたりしている。
スランプに陥った陶芸家みたいな行動をしているから
何か芸術的な目覚めでもあったのかもしれない。
うらやましいな。
家族の新しい挑戦がはじまったようだ。
見守ってやらなくては。
さりげなく助けてやれることはあるのかな?
と思っても
私の頭では、考えてもそんな器用なことは思いつくわけがないから
真正面から聞きに行く。
何か手伝うことはある?
そして麗は
人に頼るのが
あまり得意じゃないから
別に!
なにも!
答えたあと
それで
まだなにか?
みたいにこっちを見る。
うーん
手助けするって難しい……
声をかけて、お茶を置いていくのは
蛍が得意だろう。
遊んでほしがっている虹子や青空をさりげなく連れ出すのは
海晴姉や霙姉が得意だろう。
だから私は
うろうろするだけ。
ちらっと見やって。
ときどき思い切って、振り切るつもりで遠くまで歩いてみたりして。
様子を見に戻ってきて。
戻ってきたときに、さっきの場所にいないと
うろたえてしまったりして。
いや──
私がうろたえようと、うろたえまいと
結局、麗には何の関係もないんだ。
こういうとき
もっと人の気持ちを汲むのが得意だったら──
せめて普段からもっと見ていてやれたら。
考えても
すぐ何か出来るようになるなんてことないのにな。
結局、できることはひとつだけで
近くを何度も行ったり来たりして邪魔をしないことか。
まあ近くを誰が歩いても気がついていないみたいなんだが。
というわけで
天使ヒカル。
十五歳。
師も走る十二月だというのに
することがない。
結局、華やかな街を一人でぶらついて
小物が安いお店を見つけて
机の上の空いた場所に小さなおもちゃのクリスマスツリーを飾るだけが精一杯。
せっかくきれいなお客様が
私の不器用な置き方で
みんなの邪魔になっていないかな。
あっちに移動したりこっちのカレンダーの前が似合いそうだったり
大きめサイズの雪だるまと並べてみたらサイズ感が変になって
思わずオマエを呼んで見てもらったりしなければいけなくなる。
暇そうにしか見えない行動だけど
確かに暇だけはあるから、私に限ってはそこは大丈夫だ。
年の瀬がさらに迫ってくれば、たぶんすることは多いはずなんだが
クリスマス前が一番合わないということなのだろうか?
どうだろう。