春風

『フルパワー』
もうすぐやって来るのは楽しいクリスマス。
王子さまといつも離れたりしない家族の春風は
実は不器用だから。
もっと仲良くなりたいなとか
せめて少しでも近づきたいなという時でも
行動に移すきっかけがなかなかつかめないので
こういうときこそ
イベントごと!
頼りたくなるの。
お料理はできるほうで
飾りつけもしてみようかなと考えたら
いつの間にかみんなに教えるほうになっているけれど
だからといって
やってくるクリスマス
絶対に王子さまのために満足できる夜にする!
とは
自信を持って言い切ることができない
苦手が多いほうなので……
いちおう、言うだけ言ってみる、
やるときはやるって、気持ちだけでも前向きになってみる、
そうすることもあるけれど
すぐに忍び込む
本当にそうなの? という疑問。
誰にも答えることはできない。
世界のどこにもそれを知っている人はいない。
春風、
できるでしょうか?
うーん
もちろん、できるかどうかではなく
とりあえず
やるだけやります、といつもそこに辿りつくのだけど。
最後の答えがわかっていたって
それまでに迷ったりしないなんて
そんなことはないと思うの。
たぶん。
春風だけが荘だったらと自信はないけど……
クリスマスが近づいても
パーティーのことしか考えられないわけではなくて
毎日寒いから、みんなのことを気にしてみていたいと思うし
こういう強い風の頃になって誰かのズボンに開いた穴に気がついたり
どうやらそれで風邪を引いてしまったらしい霙ちゃんには
おいしいおかゆを作りたいと思うし
クリスマスプレゼントでいま一番みんなよりも悩んでいる様子の夕凪ちゃんは
ぐんと伸びる背をもらって
そうすれば、お兄ちゃんとデートみたいに並んで
年末は映画館へ見に行きたいと言うから
それならサンタさんへのお手紙の文面を一緒に考えてみたいし
クリスマスに見たいDVDの候補は
レンタルのお店に寄り道するたびに増えてしまって決まらないまま。
春風は本当に
クリスマスを迎えることができるのでしょうか!
どうもできないことばかりだと
ある日突然思いついて
そうだ、もしかしたら
積み重ねた偉大な先輩たちの知恵を拝借してもいいのかしら、
具体的には、このごろ良く届くクリスマスの招待状──
あのときめく一枚の華やいだお手紙、
手の上にきらきらした小さな幸せ。
ああいうのを
物真似をしてみたらどうだろうと
考えてしまったんです。
いいアイデア
もらってしまったら
悪いかなあ──
でも、奪ってしまうわけではなくて参考にするわけだから
たとえるなら、おしゃれは見て盗むのと似ていると言えるわけだし
でもできれば一年に一度の記念日は
オリジナルのアイデアで勝負したい気持ちもあって
毎日鏡で見ているありふれた顔なのに
春風には自分のことがわからなくなってきたんだけど
王子さまの考えはどう?
春風だったらこういうとき
何でも取り入れてためらわない
わりと手段を選ばない策略家のほうでしょうか。
それとも
ひたすら理想を信じて
自分の道を追求する、意外と融通がきかない子?
運命が結びつける
愛しの王子様なら
ふだんからとまどいっぱなしの春風のことを
自分自身よりも見ていてくれているような気がしてならないんです。
どうなるかわからないまま
前触れもなくふらりと迷ったとき
頼ってしまったらだめですか?