立夏

『フェニックス』
寒くても元気!
冬と言えば──
ひりひり乾燥する冷たい風
体の芯まで透き通るような寒さ
震える胸も容赦なくピシピシ凍り付いて
思い通りに動くのかどうかもしらないカチカチの体。
冬と言えば──
急ぎ足の帰り道で思い浮かべる
暖房の聞いたお部屋。
風を避ける寄り道のコンビニ。
かいぐい。
湯気の立つ幻を見せるラーメンのお店。
ただようおいしそうな香りも幻?
行き過ぎた後までさまよいついてくるわけないもんな。
こたつに眠る
丸めた座布団と立夏
枕にするはずなのに
なぜ抱きしめているのか
誰も知らない。
さみしいの?
寒かった?
わかっていることは
よだれをこぼして目を閉じた立夏
やがてもうすぐ
うるさく暴れだすということ。
そのトリガーは甘いあんこのにおいかもしれないし
踏みつけていく小さな足かもしれない。
それでも
いちど起き出したらその時は
決してさっきまでみたいに
今にも死にそうな顔をしてぶるぶるしていることはないのだ。
冬は立夏がすぐ立ち直る季節。
いいことがいっぱいあるから。
ここに待っている人がちゃんといるから。
そしていい気持ちですぐにうたた寝をはじめたら
もう今まで歩いた恐ろしい寒さの景色は
すっかり記憶から消える簡単な頭をしているから。
よみがえる生き物たちは
きっとこんなに難しいことないのだろう。
やがて緑の葉がひらく枯れた枝も
土の中で口をつぐんだいい声の虫たちも
よくはねるかえるもおけらも
立夏を見習ってそのうち出てくる。
だけど誰よりタフなのは
家族が見守るこの場所で目を覚ます立夏
ちびっこのときからも
今になってもずっと
うるさいのは変わらないから
みんなも安心して
立夏
あそぼ!
って呼べるんだあ。
ただひとつ惜しいことと言ったら
眠る前に思いついた何かいいことを
いつのまにか忘れてしまってまったく思い出せないことかなあ……
ああ悲しい……
氷柱ちゃんはいつも
きっと立夏は考え無しに禁断の扉を開くから
パンドラの箱は閉じたままにしておいたほうがいいと言うけれど
希望が入っている箱は
何が飛び出してくるとしても
特に気にせず
開けたいな。
ぱかっと
ためらうことはなし。
それでいいでしょう?
さっきまでの記憶で
かすかに残っているイメージは
ほんのり湯気が揺れるラーメンと
みかん。
いやいや
ちがうよ!
あんしんして!
リッカはいつもね
ごはんはお米もなるべくはしでつまんで残さず食べて
ラーメンのお汁に
ごはんを入れてお雑炊にしてでも残さない良い子だもの。
食べ物を粗末にするような思い付きじゃないはず……だよ?
きっと元気が出るはずの
いいひらめきだったから
今、ぱちっと目が冴えたときに
わずかな希望が残ったんじゃないかな。
惜しいなあ。
みんなと分け合えなくて。
いいアイデアだったと思うよ。
だからもしオニーチャンが
リッカの代わりに思い出したら
なんでも言ってみてね!
そこから何かが生まれる。
きっと元気な何かだろうな。
ぴちぴちしてるよ。
リカのことだから間違いない。
また出会えるといいね。
眠りについた暴れそうな夢。
またね。
チャオ!