春風

『恋愛相談』
恋をすると
胸が甘くときめいて
恋をすると
ためいきばかりがこぼれて
恋をすると
たったひとつの願いの他は何も浮かばない。
このままではいけないと思っても
今さらどうすることもできないわ。
だって春風は
この世界でたったひとり
他の誰でもない王子様へ
はじめて芽生えた恋心の全てを
残らず捧げることになるともうわかってしまったのだから。
それにしても
春風、こんなに聞き分けがない子だったかな?
ほんの少し前まではまだもう少し
がんばれば隠しておけそうな気がしないでもなかったような。
でも、別に隠す必要はどこにもないからいいのかな。
だけどたまには
王子様が赤い顔でうつむいて言葉をさがすときには
手をつないで見つめるだけで
それ以上はがまんしようといういじらしい春風が
いたはずです。
ええと、いつまでいたんだったかしら。
なぜだか今、確かにある思いをはっきり自覚すると
出会った瞬間から今まで
ずっと止められないままここまで来て
一瞬たりとも制御をしなかった
そんな気もしてしまいます。
うふふっ、まさかね。
それじゃあ私も王子様も大変だったはずだけど
私はそんなに大変だと思ったことはなくて……
もしかして王子様は困ってしまったりしたことが
あったとしたら……
ごめんなさい!
あのね王子様。
春風はなぜ急にこんな気持ちになるのか知っているの。
なぜなら見回す街はいつのまにか
緑と赤のきらめく飾り付けがそこかしこに生まれました。
クリスマスのチラシがよく目に入るようになって
まだ11月で、クリスマスだって一応まだ全力ではないのに
わくわくしてきているし
これからどんどんときめいてきたら
もう、
もうっ
どうやっても
子供みたいに好きな人の胸に飛び込みたくなってしまいます。
枕もとの靴下に
いちばんのお願いが入っている
寒さが厳しい日のまぶしい朝を何度も想像した頃みたいに
落ち着かない春風がねがいごとそればっかりになってしまう。
腕を広げてもらっても
いいですか?
だめですか?
受け止めてもらえるには
春風は大きすぎるでしょうか。
楽しい気持ちが膨らみ続けると
人は一体どうなってしまうのでしょうか。
どこにでもあって
誰でも経験することなのかしら。
今年、王子様といたい春風の気持ちは
一緒に過ごした去年や、その前の年と比べても──
あるいは、もしかしたら、今まで重ねた経験があったから
大きくふくらんで
はじめてのように不安と期待に震えているみたいなの。
それでも確かに近づくクリスマス。
泣いても笑っても
12月がやって来るのなら
怖くても、何もできないような気がしても
全てを受け止めるしかないわ。
と、いうわけで
春風はクリスマスメニューのリクエストを受付中です。
王子さまの一番好きなものを作りますね。
どうか春風とあなたのクリスマスが
世界のどこにもない二人だけの時間になるように
幼くてかわいい頃みたいに素直に言える大胆なお願いで
春風を困らせてあげてくださいね。