綿雪

『おひめさま』
みんなでお絵描きをしていると
人気なのはいつもかわいい女の子。
ねこのみみや天使の羽、
金のティアラだとかカチューシャ、ピンクのリボン、
海と晴れた日の色のセーラー服に深い紺のブレザー、
純白のプリンセスみたいなドレス。
読んだことのある絵本を真似て一生懸命描くのは
シンデレラに白雪姫にかぐや姫
そっと眠るように目を閉じたジュリエット。
貝殻の髪飾りもきれいによく描けた
人魚の子も波に揺れていますね。
みんなが張り切っていたハロウィンのお祭りが過ぎてからしばらく経ち
思い出しながらクレヨンをすいすい躍らせた子も多いの。
楽しそうに歌うあのときの歌はうろおぼえだけど
絵のほうは──
特徴をとらえていると思います。
じょうずだね。
でもちょっと、むずかしいのを描こうとしすぎているのかも?
好きなものがいいんだもの、
ちょっとむずかしすぎたって、関係ないですよね。
どうも話を聞いていると
みんながみんな、こんなふうになれると期待しているわけでもなさそうで
かわいかったから。
見ているのが好きだったから。
なんとなく
心に残っているから。
みたいです。
衣装つくりを見て、手伝ったりもしていることもあり
着ることは最初から想像していないような。
好きだからということはまた別みたい。
動きにくいのも
汚してしまいそうなのも、一目見ればわかるのがいっぱいですもの。
毎日ドレスは
疲れてしまいそう。
きれいなお姫様は見かけによらずたくましいのですね?
すらっとしていても体力がぎっしり詰まっているかもしれないです。
好き嫌いもしないかも?
王子様と踊るときにも
ついていくだけで大変なようでは、お姫様もできないですものね。
なんて話をしながら
長いシルクのスカートと手袋をいくつも描きました。
ははあ、さては。
前から不思議に思っていた疑問が一つ解けそうな気がするの。
なんでもできて頭もよくって
大人の氷柱お姉ちゃんが
なぜかこういう仮装の時には
すてきなお姫様に、あまりなってくれないこと。
似合いそうって思っていたの。
すらっとした手足。
とてもきれいで
厳しいけれど、それはしっかりしているからで本当はやさしくて。
たぶんお姫様になるのが苦手なのは
好き嫌いがあるから、という理由はちょっとだけで、というのはユキの冗談で
動きにくいと
まだ小さいみんなのお世話をするのが大変だからかもしれない!
と。
日に日に増していく寒さと
もうすぐ迎える楽しい年末年始を前に
考えてみたものですから。
振袖の氷柱お姉ちゃんはいつもきれいでしょ?
ユキたちといてくれるふつうの氷柱お姉ちゃんも好きだけど
特別な気分になれる日がたまにあったら
きれいになってもらえたらちょっといいなと思いました。
考えているのは特別な──
一年で一番優しいときが流れるクリスマス。
ユキ、今年のクリスマスは小さなみんながはしゃぐときのお相手を
日頃よりもちょっとがんばってみるから
氷柱お姉ちゃんにその分、いつもとはちょっと気分を変えた装いで
本当はよく似合うお姫様でいてもらえるとしたら。
どう思いますか、お兄ちゃん?
こういうの、サンタさんへのお願いとはちょっと違うでしょうか?
なるべく──どうか、氷柱お姉ちゃんには
まだ内緒にしていてね。