夕凪

『春眠?』
日が当たるお部屋は
あたたかい。
みんなが集まるリビングは
お庭に出る窓の前に陣取ると
ぽかぽかで
すや……
すや……
んっ!?
寝てないよ!?
あれっ、夢か。
お兄ちゃんが今日は早く帰ってきた夢なのに──
遊びに行く約束もして
準備をはじめた瞬間なのに!
うーん、でもまだ
外は風が強いみたい。
がっしりした太い枝を揺らし
紅葉の色の葉が上下して
びゅうびゅういってる大荒れもよう。
窓をぴっちり閉じたら
こんなにあたたかくて
眠くなるほど気持ちがいいのに
ガラス一つ向こうでは
とっても風が冷たいの!
小学校からの帰り道は
肩を丸めて星花ちゃんと寄り添いながら。
お部屋に入ると
はあー。
ふう。
だら−んてできるよ。
小春日和のようなのどかな気もするし
ぜんぜん寒いようだ、かもしれない。
なんていえばいいの?
うん、みんなが帰ってきたら
集まって気持ちがいいから
お兄ちゃんもいてくれたら
夕凪のすみかは春みたいなものだな。
お外に行きたいけど、これじゃあむりだねえ。
ざんねんだあー。
あっ
ああっ!
青空ちゃん!?
ちょこちょこ窓まで歩いていって
どうするの!?
お庭に出るの!?
ま、まさか!
だめ!
ああっ!
あけた!
びゅー!
さ、さむーい……
もうだめだ。
ぱたり。
お庭へ飛び出していく足音がするよ──
そしてこれは、
んんっ?
この聞きなれた感じの
とんとんとん足音が
遠くからゆっくり近づいてくるのは!
わかった!
お兄ちゃんだ!
へへっ
わかってしまうの。
あいのちからー。
夕凪、そんな力で
お兄ちゃんをつかまえたら
なんでもできそうな気がするの。
お兄ちゃん!
おかえり!
だだっ
えい
どこにでもだきついて
ほっぺもぎゅう。
あったまる?
ん?
むにゅむにゅする。
あっ!
お兄ちゃんじゃあないよ!
海晴お姉ちゃんだ!?
なんで!?
もうっ。
お兄ちゃん、お帰りが遅いんだから。
まちくたびれてるのに。
じゃあ、あらためて
暖かい夕凪が冷えてしまった海晴お姉ちゃんを
あっためてあげる──
むぎゅう。
あ。
ぎゅうっ?
あっためてもらっちゃった。
青空ちゃんもおいで!
ううっ!? まださむっ。
海晴お姉ちゃん、おかえり!
お部屋の中はあったかいよ。
お兄ちゃん、もうすぐ帰ってくるでしょ?
まだかなあ。
遊んだり、転がってみたり
お出かけの約束もしたいんだあ。
それで、それで
お兄ちゃんは夕凪といてくれて
夕凪はもういつでも
お話したいことがいっぱいあるって
帰ってきたら、ちゃんと
ぜんぶ教えてあげないといけないのになあ!