『傘の下』
秋晴れのいい天気が長く続いたような気がする。
今日は曇り。
日に日に増して行く寒さを実感したわ。
もし降るとしたら
私たちの町もそろそろ白い雪なのかな──
と思うくらい。
北海道や東北はいよいよ厳しい寒さを迎えるみたいだけど
ここはまだそれほどでもないみたい。
帰り道には
ぽつぽつと、冷えた頬に当たるのを感じて曇り空を見上げる程度の雨。
まだこんなものね。
本格的な冬はこれからになるということ。
どんどん朝晩の寒さは厳しくなり
誰かと歩いている帰り道、ふいに言葉が途切れたときの
灰色の厚い雲に全ての音が吸い込まれるような静けさが
ますます寂しく、冷たくなるような。
まあ立夏がいる日はうるさいくらいだけど。
凍える指を動かすのも体を動かすのも億劫で
襟に埋めた口もどんどん凍り付いていくようになるのかな。
はー。
寒くなっても何にもいいことはないわね!
みんなが思い思いに適当な願いを言っても
寒い時期には家族で南の島に行ったらいいなんて話は現実的ではないもの。
お兄ちゃんには髪にハイビスカスを刺してもらうんだって。
立夏が。
喉を通りすぎる甘いトロピカルジュース。
潮風の香り。
ふーん、よかったわね。
勝手にすればいいわ。
大人になって自活できるようになったらね。
また天気が崩れたときのために
たまには玄関先で傘を並べなおしてみたところ。
これから雪が降るようになったら
穴が開いていたりすると酷いことになるし
肩がはみ出して濡れるとか、大きい傘をふらふらもてあましたりすると
とても見ていられないでしょう。
それなのにみんな自分勝手なことに
持ち歩く傘はかわいいのでないと気に入らないやら
上品な色がいいとか
みんなと同じはいまいちとか
いや、逆に飾りが多いと恥ずかしいだの
お兄ちゃんとおそろいにするとかうるさいんだから。
傘はそういうものじゃないと思う。
実用性って言葉を知らないの?
相合傘がいいって遊んだりするから
散らかりがちなのを
ちゃんと必要なのが持ち出しやすいようにときどき見ておくの。
いい?
下僕はいつもぼんやりしているんだから
万が一にも間違えて
かわいらしい小さい傘を選んだりしたら大変よ。
あわただしい朝は言い訳にならないんだから。
そうなったら、はみだした部分はびしょびしょ
ズボンの裾までどろどろで
春風姉様に見つかったら逃げ切れず
かわいい傘ですね
交換しましょう
あっ、大きい傘だから入れてもらいましょう
くらいのことはなし崩しで起こりそう。
私のところにあわてて逃げてきたって助けてあげないからね。
これから冷えたら大変なことになる時期、
雨でも雪でもあわてずさわがず
ハンカチとティッシュをいつものように持ったら
ちゃんと体が濡れない傘を選んでいくのよ。