真璃

スペシャル』
一手間かけるっていいかんじ。
愛って、見つめ合うだけだったり
側にいるだけで伝わるときももちろんいっぱいあるけれど
それでも届けるために一工夫してくれたら
ますますうれしくなるものよ。
難しいことだし
失敗もするけれど
愛していることを
いつもよりちょっとわかってもらえたらと
欲望は果てしがないのよ!
たとえば、サプライズとかね。
今日の蛍お姉ちゃまのサプライズは
まず前振りとして
おいしい栗ごはんを用意します!
この秋いちばんの
くり!
くりだよ!
と、昨日から予告しておいたのも仕掛けの一つなの。
ごはんに手間をかけて
おいしくするのって
いいことだとマリーは思うの。
それって特別な感じがするわよね。
お赤飯。
オムライス。
やさいごはん。
そして──栗ごはん。
不思議ね。
ごはんがいつも以上に活躍をするだけで
ぐっと豪華な食卓になる感じがするわ。
だからみんなでわくわくしながら待ち望んだ栗ごはん。
秋の喜び、栗ごはん。
たけのこごはんも
きのこごはんもいいものだって、意見は分かれるの。
ぎんなんとさつまいもの入ったやさいまぜごはんもすてきね。
でもそれで
栗ごはんの喜びという名の堅牢な城はいささかも揺るぎはしないわ。
決して敗れることのない無敵の姿。
秋の味覚ってそれぞれがすばらしくて
ひとつの城を守るにふさわしい。
そんな気がしない?
ぎんなんは食べ過ぎると小さい子には良くないから
マリーたちにはまだまだ早いけど
それでも大人っぽいお姉ちゃまたちには人気の
セクシーな雰囲気があるのよ。
フェルゼンも負けないでね!
とまあ、喜んで炊飯器の前で炊けるのを待っていたら
なんと蛍お姉ちゃまが満を持して
かわいい笑い声をこぼしつつ
みんなの前でもったいぶりながら取り出したのは
おおきなおおきな
とってもまるまるよく育った
りっぱな
なす。
なすよ!
秋の名をそのおいしさの表現に使うこともある
秋なすよ!
調理次第で
じゅわっと染み出す味の良さには比類がないという
あのなすよ!
うん、まあちょっと通好みというか
小さい子にはまだちょっとピンとこない食材ではあるけれど
蛍お姉ちゃまががんばっておどかそうとして
なんだかみんなが楽しかったから
それでいいのよ!
今日のおかずは
ピリ辛炒めのマーボーなす。
しろいご飯が食べたくなりそうだから
実は用意がしてあります!
栗ごはんよりこっちが良かったら言ってね。
そんな宣言にマリーはおどろいてしまったわ。
ええっ!
おいしくて
手間がかかっていて
迫力いっぱいで
ほくほくの栗ごはんがあっても
それでもなお白いごはんを食べたいと思う気持ちもあるなんて。
人の心ってわからないものだわ。
こういうのも愛の形なのね──
そうね。
ごはんがすすむおかずには
きりりとまっすぐな
白いごはんの組み合わせがいちばんだってこともありえるのね。
蛍お姉ちゃまがしっかり新米を選んで、炊飯器が蒸気を噴き出して炊いた
つやつやの白いご飯だもの。
ひとくちめは
白いごはん?
栗ごはん?
うれしいときに
こんなに悩めるって
なんてぜいたくなことでしょうね!