『システム・ノーガード』
そっと目を閉じると、夜の帳はどこにでも降りてしまいます。
亞里亞のところにも。
兄やのところにも同じに。
そうして星が瞬きはじめるのです。
小さい星の明かり。
まぶしく灯る白くてかわいい光。
あれは遠い彼方にあって、手が届かないと言いますが。
本当は夜になったらあらわれるものだから、やさしく照らそうとしているのだと思います。
つかまえて抱きつけないはずがない。
今すぐほしいと思ったらそこにあるよ。
そういうものばかり、亞里亞のまわりにたくさんあります。
だから夜空に撒いたように散らばっている星もなの。
やさしくて、近くにいてくれて。
亞里亞の夜が寂しくならないようにあるものです。
もうひとつふたつ、増えてもかまわないものかしら?
いっしょに遊ぶの。
練習したから上手に踊るの。
亞里亞とあたりを回ってください。
十も二十も増えたらいいの。
増えてとお願いするんだから、いくらでもあってかまわないですよ。
何からできているの?
どうしたら生まれるのか、教えてね。
知りたいからランプを灯して本を探します。
となりに、暖かいミルクもクッキーも置きますね。
図書室に持ち込めるのはそれだけです。
まるいランプは、ママが小さかった時代の古いランプ。
もう灯がつかなくて明るくないからもらったの。
中に住んでいた明かりが逃げたみたい。
だから捕まえます。
捕まえて、放り込みます。
出口を閉めて、閉じ込めます。
あのね。
お願いしてもかまいませんか?
どうか明るく照らしてくださいね。
星明りの下には棚がひとつだけ。
背の高い本と、まがった本と、ほこりっぽい本。
知りたいことを教えてほしいの。
あ、でも、足りないですね?
まちがいないの。
これは足りないの。
では、星明りの下に棚がもうひとつ。
背の高い本を引きずり出して、じゅうたんみたいに広げて、両手をついて読みましょう。
ランプを持っていて、じいや。
亞里亞が願うと、星が生まれて、星は亞里亞のもの。
明かりが生まれて亞里亞のそば。
じいやが生まれて亞里亞のもの。
やさしいじいやが生まれるまではまだ知らないから、こわいじいやなの。
くすん……
大事なランプなんです。
持っていて。
星は何からできているの?
夜になったらどうやって生まれるの?
つかまえて持ち帰ったら、どこにしまっておくといいの?
元気に踊って、遊んでもらうには?
星は──
ななつの色でできている。
兄やの妹の12人とだいたい同じですね。
見せてもらったから知っているの。
兄やの手のひらに虹ができて、ななつの色。
混じりあったら白い色。
だから潮風のにおいの夏の海は藍色になるって亞里亞はついに知ってしまったんだから。
寂しい夕日は赤くなるということも。
亞里亞も寂しくて泣いていると赤くなるんですって。
みんな同じです。
高い音も踊る音も歌声も、いっぱいの音に分かれているんだって。
星の光が届く星の空は、混じりあってぶつかりあってかがやくので。
指の先から星が生まれて夜に置いて、亞里亞の隣で踊りだすまで──
それなら歌いださないと。
亞里亞、もっともっとこっちですよって兄やを呼ぶみたいに声を出して歌うの。
そうしたい気持ちが生まれて、亞里亞のものになったから。
呼ぼうとしているから。
聞いてほしい兄やが今はいないから。
夜になったら星が光るから。
らん
ららら。
たんとんたん。
てくてくぴょんぴょん。
聞こえた?
生まれた?
すぐ会いたい気がしてきたら、それは亞里亞が歌うから。
つぎのお誕生日の贈り物に、お別れの間際に広がっていた星空がみんなほしいと願った亞里亞がいたから。
兄やとまた星の夜空を見るの。
ぜんぶくれるって約束したから。
だって星って──
遠くにあるものなのに。
亞里亞がまだ小さいから兄やがくれることになりました。
ほしいものをみんな。
好きなだけ。
夜の星でも足りなかったら、まだまだもっと。
光っている星は兄やから亞里亞への贈り物なんです。
作り出す光は兄やが亞里亞にくれたものです。
いつのまにか歌い出す声も。
みんなみんな、小さい亞里亞がもらったものです。
いつもいつもありがとう。
お誕生日ありがとう。
今年もとなりにいてくれてありがとうございます。
亞里亞の贈り物を考えてくれて。
困ってくれて。
お祝いの日に一緒にうれしくなろうとしてくれて。
ふふっ。
寂しいお別れはいつも、涙がこぼれますね。
わんわん泣いてしまいますね。
ぷるぷる震える声でお願いをしたから、また会えることは、わかっているのにね。
星空がほしいって言ったときにあわてていたの、亞里亞は知っているの。
なんでもくれるってこと
亞里亞はもう、最初からわかっていたの。