春風

『コントロール
天も高くすっきりの青さが澄みわたる秋の放課後。
のどかな日、春風の帰り道は
右を見て左を見て
後ろを見てさらに右左を見て
ヒカルちゃんの腕をぎゅっとして
もう心配ないからね、
春風がついているからね!
勇気付けてあげると
春風のほうが震えているって逆に励まされるの。
怖がらなくていいって。
もしも何かが襲ってきたらやっつけて追い返してあげると
春風の頭を撫でてくれます。
ほかほか。
こんなに健気な妹がいる春風は幸せ者ですね。
私のほうが妹みたいだけど……
でもヒカルちゃんが心配で
守ってあげたいから。
できるかどうかはともかくとして。
ボディガードをしたい守られてばかりのお姫様は
何からはじめていいのかわからず
ただ鼻息だけは荒いので
すぐ隣の暖かい微笑だけが頼りなの。
謎の視線に追いかけられて
学校でも登下校中でも心の休まる暇がないヒカルちゃん。
こんなにいい子のヒカルちゃんが
よくわからないけど困っているなんて
助けてあげないではいられないのに!
なのに……
ぎゅうっとくっついているだけ。
腕にぶら下がっているだけ。
春風が安心させてあげるんだもん!
言うことが立派なだけです。
いつも気にしているのに
あんまり何もできていないんだなあ……
あれれ?
もしかして、正体不明の怪しい相手の正体は
実は守ってあげようとした春風だったの!?
そういう定番のオチがあるみたいだけど
ここしばらくは春風も帰りがわりと早めで
季節の変わり目にいる家族みんなの様子を見ていたり
大きく口をあけてなんでものみこむ魔物に変わる準備をしていたから
どうやらいちばんほのぼのする展開はなさそうなんです!
氷柱ちゃんも今はすぐ帰ってきて
子供たちに変なお菓子はあげられないと
目がきらきらな氷柱ちゃんのお姉ちゃんたちの作るお菓子を試食してくれるし
最近は立夏ちゃんも、本人によるとお友達と出かけているとのことで
ハロウィンに向けて調べることがいっぱいあるんだ!
みたいに言いながら行動をしているようで
かわいい小学生たちとなると
わざわざ電車に乗ってまでヒカルちゃんの登下校を追いかけるのも無理がありそうだったり
これでヒカルちゃんには学校の内外のどこにも心当たりがないというのだから
やはり疑いは
考えたくはないけれど
もしかして危険な相手になってしまうの?
春風が変化する前に
本当に大きな口でヒカルちゃんを丸のみにしてしまうようなのです。
先を越したくても
まだ春風には魔力が溜まっていないし、どうすればいいのかしら?
そもそもヒカルちゃんも別に深く気にしている様子はなくて
春風がやたらと怖がるのを面白がっているばかり。
これでは春風もただの放課後デートをしているみたい。
ヒカルちゃんがそのつもりならいいかなあと思っていたけれど
それは確かにあったんです。
獲物の行動を観察する猫のように鋭く
しなやかな動きを感じさせてぴょこぴょこ動く
物陰で済んだ秋空の青を映してさわやかに光る
瞬く純粋なふたつの瞳──
急いでヒカルちゃんを引っ張って
家に帰っても、
毎日変わらずお友達とお出かけしている立夏ちゃん以外はみんな揃っているの。
やっぱりあれは
あれは──
あんなにきらきらした純粋な瞳をしていながら
子供だとしたら動きが鍛えられすぎているし
やはり、とても人間のものとは思えない!
明らかにヒカルちゃんの何かを狙っているんだわ。
たとえば
春風に優しくしてくれたかっこよさとか──
そんなにすぐに盗めるはずがないのに
だいたいそれなら、春風はとっくにヒカルちゃんを守れる王子様になれるくらい
見ていたのに──
できないの。
背伸びをしたいおばけもいるものです!
春風、力不足はわかっているけれど
あんまり怖がっているようではなくても
守るなんてできないことで自分を責めて苦しくてもかまわないから
弱気になる自分を励ます強さをどこにもなくてもどうにか引っ張り出して
そんな自分を作り上げて。
放課後デートも楽しかったし
明日もヒカルちゃんといてあげたいと思います。