綿雪

『うるとらファイト』
まだちっちゃいから
バナナがはんぶんしか食べられないのは
おうたのさっちゃんと
ユキの小さな妹のさくらちゃん。
半分にして分けましょうねってよくお話しするから
いつもユキのところにやってくるようになったの。
本当は半分でおなかいっぱいなのはユキも同じで
じつは小さい子だから──
楽しく食べられるのは
いつだってさくらちゃんのおかげなんです。
ユキがもうひとつ
小さくてあまり得意ではなくて
それでもむりをしてしまいがちになるのが
おでかけ。
ごきんじょのよく知っているお店に行くだけでも
お兄ちゃんの手をぎゅっとつかんで緊張してしまうのに
いっぱいの人が訪れるデパートなんて
それはちょっと行ってみたいけど
体がびっくりしすぎてしまうから。
まだそんなに大人になっていないんだもの。
おるすばんをしていなくては!
ユキもそう思うし
みんなも調子がいいときにねって答えてくれるから
一人でもいいの。
ふつうなの。
楽しいことばっかりで
わくわく胸がふくらみすぎてしまったらいけない。
今はハロウィンのシーズン。
いたずらっ子のような顔をしたおばけの飾りに囲まれて
もうすぐユキが一つだけ選んで着ることになる魔法の衣装がいっぱい。
これ以上楽しすぎたら
どうなってしまうかわからない。
ばちがあたって
いばらのお城で魔法の眠りに落ちて
目が覚めないかもしれないから……
怖い想像にユキはとても弱いから。
ときめきすぎるのはやめておきます。
そうすれば、考えなくてすむかもしれないな。
楽しすぎて悪いことが起こったら、なんて。
だけど一人で目を閉じていたら
たまにぱっちりまわりの面白いものを見つけたら
そういえばいつも楽しいことばっかりだったって思い出すの。
体の調子がいいときには勇気を出してデパートにも行けるし
こんなユキでもみんなに手を引いてもらってたくさん歩いたな。
もうすぐ楽しいパーティーだって待っているって
今日はみんな、そのための買い出しで
いい子でいたらユキにはそれだけで
おみやげも持ってきてくれるって
約束をしたからまちがいないの。
だからきっとこれからも
うれしいことばっかりたくさんあって止められない。
今までみたいに
ショールを引き寄せるときでも顔が暖かくなるまで興奮しっぱなし。
いつも変わることはないって言ってくれたから
怖くても
信じなくてはいけません。
けっきょく、ユキがアルバムを見つけて
広い世界を皆と歩いた旅行のことも
家の中が世界でいちばんにぎやかなんだって感じた日も
新しいお洋服ができた記念のお写真も
たまたまお兄ちゃんと二人で遊んだ記録を残しておいたのだって
面白くてずっと眺めてしまったんだから
変わらないなと思ったその時。
やっぱりおるすばんをして
今日の夕方はむずかしいご本を読んでいた霙お姉ちゃん。
最近は日暮れの時間のせいで帰りも早いから
読書が充実すると、
それでも話をして見たくなる時もあるからと
いろんな本を持ってきてくれた霙お姉ちゃん。
今日はいつもより物静かで落ち着いていて
優しいお姉ちゃんに
ユキの取りとめもないお話を聞いてもらうと
世界は広く
楽しいことも怖いこともは果てしがないから
抵抗なんて
ユキにはまだむずかしいんだって。
そうなのかな?
しかも宇宙はもっとどこまでも続いていて
誰も見たことがないような楽しいことばっかりが
どこから降り注いでくるかわからない、
覚悟しておくようにって言われちゃった。
だから一人で受け止めきれないことがあったら
うれしくても
悲しくても
分け合うものなんだと
静かに頭を撫でてくれた
そういうお話でした。
いつかユキも宇宙のすごさを身をもって知ることになるでしょうか?
今まで見てきたより広い、
たくさんの発見がある世界。
受け止めきれなくて
助けてばっかりの未来が
いつかやって来るとしたら
ベッドで考えていたことなんて
全部吹き飛んでしまいそう。
こんなにいいことがあったら
ユキはもうそれでいいって思っていたのに
もっと大変な、いろいろなことがやってきたら
やっぱりどうしても
一人ではいられなくなりますね。
逃げることも隠れることも
あきらめることも
もう、どうしてもできなくなってしまうと
とっくに決まっていたなんて
知らなかった──
でもそういうものなら仕方ないですね。
ハロウィンで一番かわいい魔女になるのはユキだって
今のうちに決めてしまうんだぁ。
決めたからには
助けてもらいながら、怖いことも見つめながら進む
みんなと一緒にいられる
変わることはない確かな未来。
そうですよね。