海晴

『秋の夜』
街をオレンジの暖かな色に染め
軽快なこうもりのダンスと
狼男の歌声が聞こえるような
気分だけはするときもあるかもしれない
そんなふうになれたら楽しいお祭りがハロウィン。
小さなかわいい妹たちは
なんでも疑問を持って聞いてくるの。
いったいハロウィンって何?
うーん
とっても答えが難しい質問ね。
ごく最近からのにぎわいだから年の功は通用しにくいわけで
日本のハロウィンは本場とはずいぶん形を変えているみたいだし
細かい説明をしてもちいちゃい子は途中で飽きちゃうし。
とりあえず単純にまとめて
よくわからないけど
海外ではそういうお祭りもあるらしいよ!
とりあえずこんな感じって
雑誌で紹介しているディズニーランドのハロウィンパレードを開いてあげるの。
そのくらいの知識で
もしも私たちの家でも、かわいいことには目がない子たちがいなかったら
せいぜい珍しい刺激的な包み紙のお菓子の詰め合わせを選んで帰って
仲良く分けて食べる日で終わっていたのかもね。
でも、いたずら好きの霙ちゃんなんかは調子に乗って
安心してお風呂に入っている隙を見て
かなり奇抜な入浴剤をなにげない顔で放り込んで
おどろきながらほくほくしてみんなであったまるのかもしれない。
紫色で泡がぽこぽこ出てくるやつとか
面白そうってお店で見ているわね──
さすがに見ているだけで済んでいるのは
あんまり乗り気だと思われると
あの魔女の帽子をかぶって呪文を唱えるところまで期待されそうだし
実はそこまで勇気を出せない怖がりなところが
霙ちゃんにもあるからなのかしら。
結局、どうも
お菓子の袋のふたつやみっつでは終わらなくなりそうで
なんにも知らないうちに
少し前までは寒さに備える支度をして
余った時間をもてあましていた秋の夜長は
いつの間にか海を渡ってきた怪物たちの侵略によって
どこに本物が潜んでいてもわからないほどに騒がしく
楽しそうだったら真剣になれる
こういうおうちもひとつくらい
広い世界の片隅で
小さな明かりを灯しているものなのかもね。
いつもはみんなの行き過ぎをいさめるしっかり者たちも
氷柱ちゃんにはお兄ちゃんのお付き合いっていう言い訳ができたし
複雑なお年頃の麗ちゃんは
気がついたら増えている怖いようで愛らしい小物に
顔をほころばせているところを
見てしまったのは
ここだけの秘密なんだから!
でも内気な小雨ちゃんになると
まだちょっと雰囲気においていかれがちなのか
落ち着かないみたいなの。
うん、そういうのも
あんまり流行りものについていくのが大変なお姉ちゃんと同じなのかもね。
ふだんよりもかわいがってあげなきゃ。
もともとが西洋っぽい盛り上がりだから
馴染めない人に無理強いをするようなことにならないようにしたいし
ハロウィンが苦手だっていいんだよ。
さっきお話をしたときも
小雨ちゃんは仮装ってどうするの?
たまには思い切ってお姫様なんてどう?
似合いそうよ、
さりげなく話題を振ったつもりが
ええっ!
しししし
しらないといったらいけないんだけど
ヒカルお姉ちゃんを追いかけていた人のお話はできないんです
ごめんなさいーっ!
よくわからないことを叫んで逃げちゃった。
何か悪いことを言ったかな──
どうも私には話せないことがあるみたいだから
こういうときは
小雨ちゃんのすてきなお兄ちゃんが
アフターフォローをおねがいね!
うまくできたら、お姉ちゃんが珍しく練習中の新しいお菓子を
誰より一番に試食させてあげるね?