観月

『まだら』
雨が降ってもいないのに
くつしたもおくつも
白と茶色のまだら模様。
スモックにもぽつぽつ泥が飛んで
蛍姉じゃが見たら頭を抱えてしまうか
また涙目になるか
やさしくやわらかな顔を寄せて
ぬいでね
と声をかけ、ひっぺがすかのいずれかであろう。
おてつだいのつもりで
じょうろを運んだりころがしたりしていたのがよくなかったか。
みんな良い子でお花のお世話ができたが
やはり、おおはしゃぎだったものだから。
いつもいつもこんなに汚していては
因果によって鬼が来て
ひょいとつままれ、とって食われてそれっきり。
術で追い返せるよう今のうちから鍛えておこうとはりきっているのに
ぜんぜんこない。
兄じゃが守ってくれているのか?
家で見るものと言ったら
ご本を抱えた小雨姉じゃの後ろからついていく
すみれ色の花飾りのかわいいむすめ。
あれはたぶん
今年もこの家にもやって来た
読書の秋というやつじゃ。
過ごしやすい日なたの窓で
頭のほうはまぶしくないよう影に引っ込んでいる小雨姉じゃの耳元から
真剣な顔を寄せてのぞきこみ
悲しいお話のときは一緒にはらはら涙を流したり
そういうふうにして精気を分けてもらう
たいした悪さもしない子じゃ。
よみおえたあと
ちょっと寂しくなるような気がするのは
満足したむすめが離れてどこかへ行ってしまったせい。
影響はそれくらいで害もない。
ながめていてもこっちに気がつくでもなく
小雨姉じゃに夢中のようす。
追い払うほどでもない。
そういうよくいるやつじゃ。
さきほどは
マリー姉じゃが先の予想もつかない冒険のお話をめくって
満足そうに興奮の吐息を長く漏らしたとき
横ですっきりしたような顔をしていた明るい黄色い髪のおとめ。
あれも読書の秋じゃ。
好みがいろいろあるらしいな。
それから向こうからやって来る
兄じゃの背後についている子。
みんなをいつも見つめて
くしゃみもそういう遊びだと思ってちゅうちゅうがんばっている
あれはあさひじゃ。
ものまねが好きらしくて
ああして最近はかわいい声で追いかけてきたり
人をびっくりさせるこむすめ。
おもしろいことをさがしてばかり。
ひたすら好きな兄じゃを追いかけまわす
おばけのようでいてそれほどおばけでない
むじゃきで小さいもの。
いくら情念の虜でもわらわには何も祓うことができない。
そういう執念があるみたいだから
好きにさせてみよう。
そのうち眠ってしまうか
いよいよ乱暴が過ぎて鬼に食われるか
気がついたらこっちが食われているかは
われわれしだい。
あやつをはじめ
子供に似た形をしているものはたいていいつでも全力なので
油断なきよう。