『寒がり』
ひどく暑くなったり想像をはるかに超えて寒くなったり
極端な天候が続くとき
人の世間話では体調の心配をするそうよ。
うっかりしたら健康を崩しやすいのはまさしくその通りだけど
余計な心配をしているなあっていうか
そんなの言われなくっても
私も子供じゃないんだから
寒くなったら上着くらい着込むわよ。
わざわざ言われなくても問題ないに決まっているのに
どうして誰もが
しつこく忠告をしないでは
いられないのかしら。
くしゅん。
今のは間違い。
それに寒くなるから大変だーって当たり前でしょ。
別に寒くないときからわりと予想外の事態は起こって大変だったし。
冬が近づいたら
まあまあ悪くないことだっていっぱいあるから
いいんじゃないかな……
みんながみんな風邪を引いてしまうわけではなく
日頃から節制している人ならば、
だから私は……
このところは……
たぶん同い年くらいの子よりは
自分をコントロールできている場面は多いはずだわ。
できない場合がゼロとは言い切れないのもささいなこと……でもないけど。
うん。
まあ、
いいことはあるの。
夏くらいからずっと混雑が目立った駅のホームも
家路にまっすぐ向かう人がだいぶ増えた。
楽観的な予想では追いつかないこのごろの寒さに
心なしか背中を丸めて通り過ぎる心細い薄着の人たちが続くと
ふいに流れは途切れ
人と人が作る集まりの隙間に
昨日までは考えられなかったようなか細い
遠くからのざわめきだけで構成される独特の静けさが舞い降りて
その静寂を貫く光が
影になったレールの裾と油断していた気持ちの両方に焼き付ける
強く激しく
忘れがたい迫力。
そんな瞬間を求めて
ホームで誰かを待つみたいにうっとり立ち尽くし、癖になるくらい襟を寄せていたら
少し鼻水が出るのはまあ仕方のない副産物ね。
大丈夫、特に問題なく受け入れることができる。
一応、私の中ではそうなの。
だからちょっと寒くなったおかげで
暖かい家で体の芯まで安心がしみ込むような飲み物が待っているって
信じていられるとしても
一瞬のときめきのために
ついつい昨日より今日、
たぶん今日より明日。
日一刻変わる景色が与えてくれる自分でも知らない鼓動のために
襟を掻き寄せ、耳を擦り
手を合わせて息を吐きかける時間は増えていくの。
これだけはどうしても譲れないわがままだって
私の体が言ってるんだから仕方ないわ。
くしゅん。
わかってるわよ──
よしっ
明日はもう少し厚着をしていかないとね!