『おだやか』
ふわぁあ
……あぁ
んっ。
最近どうも家の中がざわざわしているような気がするけど
なにかあったのでしょうか?
立夏ちゃんかな?
なぜか小雨ちゃんもあわてている姿をよく見かけるような……
よくわからないけれど
こういうとき何かと巻き込まれてしまう麗ちゃんも
ふしぎと大変そうな顔をしていましたね。
そろそろみんな元気になったかなあ?
いっぽう蛍は
ついに暑さ続きの毎日を抜け出したこともあって
なんだか気が抜けたみたいに
ゆるーい日を繰り返しているだけとなっております。
重いまぶた……
白くもやがかかった頭の奥で
こっちのお布団は暖かいよと手招いているやさしい声。
誘惑に導かれたとき
蛍はぐっすりだらしなく
やわらかで幸せな眠りの底へと
ついに永遠におちてしまうの。
まあ、
永遠はうそなのですけども。
深い泥のような睡眠の、フレーバー的な感じのことばです。
戻って来られない感覚という。
ああ……
さそわれる……
鎖でぐるぐる巻きに去れたみたいに体が重くなって。
いいのよ蛍ちゃん
あきらめて屈してもいいのよ、と呼びかけているあの
天使のような笑顔を浮かべる悪魔の正体は
やはり蛍と同じ顔をしているの。
だって……蛍はあんまり対抗手段を知らなくて
カフェインが入った飲み物は刺激的すぎるよ。
冒険してみたいときだけです。
まだこれからも、次に近づく台風も注意しなくてはいけなかったり
海晴お姉ちゃんも夏服はしまわないでおいたらまだ出番があるかもって
けっこうかわいくウインクをしながら声をかけてくれるから
どうやらまだ踏みとどまっているのかもしれない荒々しい夏。
なのに蛍はだいぶ緊張感の糸がもつれています。
知らないうちに疲れていたのかなあ?
それとも、盛り上がっていくハロウィンはまだ先だから
今のうちに休んでおけと体が命令しているのかもしれない。
暑くもなく寒くもなく
お洗濯やおふとん干しに追われることもないぽつぽつ雨で
すっかりお休みできるのどかな毎日が来たと
体が勘違いをしてしまったのでしょうか。
まあ……とくに急ぎのご用もないのはその通りであって
でも秋が来たらもっとほら。
はらはら散りゆく
まっかな紅葉!
秋空にかかる綿のように白い薄雲。
センチメンタルに
人恋しくなる季節!
を、みんなといられるんだなって、わくわくしていたら
なんと!
まったりしすぎたために
別にときめく気配がなかったなんて……
お兄ちゃんを思ってほんの少し寂しくなる経験を
一度くらいはしてみたかったなあ。
どこかにお出かけするみたいって聞いても
気をつけていってらっしゃいませってふりふり手を振って
きっと蛍のところに帰ってくるって安心しているんですから
えーと、だからお兄ちゃんには
蛍をちょっとやきもきさせるような意味深なできごとがあったりしても困ってしまうから
どうか責任をとってもらう方法として
うつりゆく季節の変わり目ものんびりしかしていられない蛍にしてしまったことを反省し
たまにでいいから時間を忘れて添い寝してくれたらな蛍は喜びます。
だいたいその場の雰囲気しだいで
抱き枕になってもらったりなんかもして
蛍ののんきでだらしのない体ももよかったらどうぞという感じで
ここはひとつ
責任感をもってだらだらしてくれないといやだぁ
いやだったらいやだあ
お兄ちゃんがいてくれないと……いやなんだもの……
こんなにだらしないのは今だけだから
次にはもう……
もう……言わないよ。
すう……