真璃

『魔境』
人の心は
いつだって複雑。
一筋縄ではいかないの。
人影のない森の奥にある
いばらの絡みついたお城のよう──
たとえば。
雨が続くからということで
愛する人と甘く過ごす以外に
することがないわね、
みたいな話をしている間も
だけどやっぱりフェルゼンと雨上がりのお外を歩きたくて
窓の外を見てしまうわ。
そうね……別に雨に頼らなくたって
二人は堂々といちゃいちゃできると信じているからなのかもね。
ところでフェルゼンは
マリーのお願いをかなえることに
そろそろ慣れてきた?
もうだいぶ長いときを過ごして
それでも二人はいつも突き当たる
真新しい扉の前に立ったばかり。
わかってきたでしょ?
次のおねがい。
マリーもね。
明るくにこにこしていたらお空も答えてくれるとか
たまたま体質的に妙に晴れを呼ぶ人がいるとか
雨が続いたら竜神様の池に美女を投げ込むといいだとか
そんな話は全然信じていないの。
現代人だから。
わかっていてもね
やっぱりたまにはお天気だとちょっといいかなあと思うし
マリーが愛するこの世でたった一人のフェルゼンなら
少しくらいの困難や不可能なんかは
白馬に乗りひょいっと飛び越えて
晴れ渡る日差しの下でマリーをさらっていく
そんな気がしてならないわ。
うーん、
ここまで具体的な想像が浮かぶんだから
もう未来は大体決まったようなものね!
マリー、予知夢を見る力もあったみたい。
なんちゃって。
はいっ!
じゃあ次は現実にする番。
大丈夫よ。
マリーだってちゃんと
フェルゼンにさらわれるときの覚悟を決めて待っているわ。
うまく体さばきを使って
フェルゼンの胸に飛び込むイメージを重ね
決して肝心なときに
なんかちょっともたもたしたりしない!
でも、戸惑いもまたそれなりにアクセントかなあって気もするし
きゃーっ!
マリー、どうなってしまうの!?
はっ!
いけないいけない。
女王としたことが。
複雑怪奇な心をもつからこそ
冷静さを保つこともレディーのつとめよ。
どうせ抑えきれないときはもうどうしようもないんだし
今くらいはフェルゼンを信じて
ただじっと待つことにするわ。
マリーの愛するひと……
運命に結ばれた二人の心はいつでもひとつなのよ。
どうかご無事で!