『たいいくかん』
おおあめの日はたいいくかん。
灰色の雲に覆われた校庭をながめても
頭からざあざあ
足元はぬかるみ。
ぜんぜんやみそうにないから
本当は、傘を広げて早く帰らなければいけません。
まだ小さくて
去年まで幼稚園に通っていたぴかぴかの一年生たちですが
実はユキはおびょうきで幼稚園に行けなくて
おないどしのお友達と比べても少しせがひくい。
ちょっとだけ。
でも、みんなそんなに変わりはない。
ユキもだんだん育っているし。
だから窓のそばで顔を寄せ合って
あんまり雨が降ったら
びっくりしてしまう。
暗いのが怖かったり
ひとこと強がってしまっても
やっぱり心細い
一年生たち。
おうちが遠い子は、ご近所のお兄さんお姉さんか
きょうだいと一緒に帰ることになったので
いつもの声でおむかえですって名前を呼ばれるまで
校庭に出られない今日は
たいいくかんで遊んでいてもいいんです。
にじか……
さんじまで!
にじに帰るのは、だいたい中学年のお姉さんがいる子。
年が近くて
ふたつかみっつくらいの違いがあっても
お友達みたいに仲がいいの。
さんじに帰るのがユキ。
小雨お姉ちゃんや
同級生くらいのお姉さんを待っているの。
だいぶ先に生まれた
見上げるくらいの身長があって
遊んでくれるときは視線を合わせてくれるときもある
すごーく大人で
一緒にいてくれるお姉さん。
体が弱いユキでは
放課後っていったってそんなに長くは遊べないけど
今日は時間が限られているし
おむかえのお兄さんやお姉さんと一緒にどんどん帰ってしまうから
たいいくかんから誰もいなくなるまで
みんなと遊んでいるの。
元気な子供たちが帰った後は
学校は静かに
日が昇るまでゆっくり眠るのだそうです。
だいぶ前、放課後の図書室で本を読んでいた小雨お姉ちゃんが
帰ってきてから教えてくれたこと。
どんなに人がいっぱいだった学校も
子供たちの知らない姿があります。
たいいくかんの前を通っても人の声はない。
大雨でみんなが早く帰宅する日は
そんな時間もすぐ。
たくさん遊んだあと
小雨お姉ちゃんと手をつないで
体育館を出て行くユキが振り返って見たのは
人が少なくなって
もうすぐ空っぽになるたいいくかんで
静かになってしまったはずなのに
あんなに走って遊んだ時間はそのまま
見えないどこかに
まだ残っているような景色でした。
危なくないようにまっすぐ帰るの。
足元に気をつけて帰らないと
ユキが濡れないかと、お兄ちゃんたちも心配して待っているって
小雨お姉ちゃんが帰り道で教えてくれたんです。