吹雪

『シンデレラ』
夕凪姉が古くなった化粧品をもらって部屋に持ち帰りました。
がさがさになった筆や
硬くなった鉛筆のようなもの、
化粧水らしい空の瓶や
薄く色が染みたパレットなどです。
もう使えないようだし
そもそも私たちにはどう使うのかわからない。
たとえまだ使えるとしても必要のないものです。
素肌の手入れに気を使うのはおそらくニキビが問題になる年頃あたり。
目元をぱっちり、顔色を明るく見せる工夫は
今はまだ自然のままでかまわないらしい。
大人になると──
自分をどのように見せるか工夫するのは
様々な考え方の人たちと交流する上で有効な努力の一つである、
と考える人もいるらしい。
清潔さを意識するのはよいことです。
とりあえず夕凪姉にはまだ
大人と同じ努力は必要はないことは確かで
道具を眺めて楽しむだけなので
すべて使い古しでも何も問題はありません。
本当なら捨てられるか、使われることなくしまっておかれるだけだった小物に
観賞の用途を見出して新たな価値を生み出したのは良いとして
夕凪姉の考え方では
外見を劇的に変化させる
常識を超越した力を持った品だということらしく
子供を大人に
よれよれの普段着を輝くドレスに
どきには女性を男性に
人の姿を動物にさえ
変えてしまうことができるらしい。
それはおそらくこれらの道具が
本来の用途を発揮しても不可能なことだと思います。
映画のような特殊メイクはもっと別の技術と言う気がするし
しかもメイクではなくて本当に変わってしまうらしい。
ありえるのでしょうか?
私は化粧の知識が充分でないため、夕凪姉の説得はできないのですが
無理ですよね?
そうして眺めているうちに
やはり本当に使える道具をもらってきて自分で試してみたいという。
おねがいをしても
あんまり変わらないから、
子供には速いからと断られるという。
まだ小さい子が使用することを想定していない以上
肌に合わない可能性もあるし
あきらめたほうがよいのでは?
肌の健康や美容に有効とされるのは
規則的な生活とバランスの良い食事だと聞きます。
大人になっても大事なことを
今のうちから習慣にしてもよいのではないでしょうか。
充分な睡眠……はともかく
適度な運動や好き嫌いのない食事などを考えると
どうも私はあまり美人になる素質はなさそうです。
夕凪姉は少し努力すれば健康面で理想的な生活ができそうです。
理屈の上では美人になる可能性は大きいと言えるでしょう。
となると、やはり問題になるのは食事ですね。
苦手を克服する──これも年齢を問わず向き合うことになる課題なのかもしれません。
もらってきた道具は使用法がわからないものばかりだけど
私は毛先の小さい水色の筆がきれいだと思います。
お願いしてひとつもらえるとしたら
いつか将来、同じ用途の道具を自分の持ち物として手に入れるまで
正確な使い道も知らないまま想像だけのために
ときどき取り出して眺めていることになりそうです。