氷柱

『嫌いな曇りの日』
朝からはっきりしない空模様で
降るか降らないかわからないまま
傘だけは手放せない一日。
折りたたみをかばんに入れるにしても
かさばる荷物がひとつ増えて
ひじょーにめんどうくさい。
登下校のどこかで降るならまだともかくとして
必要かどうか曖昧なまま持ち歩くことになるのはどうなの。
蛍ちゃんはせっかくだからかわいい傘を持っていけるのがうれしいという。
いや……
いらないならそのほうがいいわ。
手ぶらのほうが便利に決まっているもの。
とはいえ
降ったらそれはそれで
絶対傘では完全に防ぎきれないのは確実で
靴が濡れるし靴下が濡れるしスカートはべっとり足に張り付くし
かといって、この時期は下手に晴れると
うんざりする暑さになるしで
過ごしやすい季節って本当なのかしらね。
いちいちうっとおしいお天気。
まあ、天気に不満を言っていたらきりがないから
無駄にむしゃくしゃするときは
もはや原因が何かなんてこだわらないで
指先一つで下僕を呼んで
ちょっと!
なんだか気に入らないんだけど!
と、ひとこと
ためこまないで気分をすっきりさせればそれでよし。
私が呼べばいつだって
下等な下僕は尻尾を振りながら喜んで飛んでくるもの。
きっとうれしいのね。
無能なりにご主人様のお役に立てるのが。
ふーん
そうなんだ……
下僕はそういうのがうれしいんだ。
だから放課後に上級生の教室にわざわざ寄ってあげて
用事があるんだけど、ってそれだけで
とりあえず話を簡単にするために建前で呼び出したわけで
実際に帰るときに
だまって歩いている横からしつこく話しかけてくるのはやめるように。
用事?
特にないわよ。
なんて言っても
そんなにびっくりしないこと。
ご主人様は考えごとをしているかもしれないんだから。
話ができたら下僕は何でも喜ぶらしいけど
私だって一応は
言葉を選んで話をしたいんだし。
少しはわかってほしいこともあるし──
下僕に気を使う理由なんて全くないけどね。
あーあ……
雨が降って悩ましいだけじゃなくて
たかが下僕を相手に無駄に頭を使って帰るなんて最低。
こんなつまらない放課後は
脳の活動に不足した栄養分をとるために
なにか甘いものを食べて帰るようにする!
あなたのご主人様のお言いつけ。
ただ一緒に。
なんにも言わずに付き合うように。