綿雪

『晴れのちくもり』
大きな台風がまた近づいてきているそうです。
それで、また雨の日が続くのだといいます。
この週末もお天気予報は灰色の曇り空と傘マークだから──
朝からすてきなお日様が顔を出したお休みには
今のうちだけだからと思ってお兄ちゃんの手を強く引っ張って
困らせてしまっても
他にしたいことも気を紛らわせることもちっとも思いつかなくて
どうしようもなかったからしかたないの。
朝ごはんもいつものようにはゆっくりできない。
早くお外へ行かなくては
今日は並んで歩く時間がなくなってしまうかもしれないんだから。
そうなってしまったら──
お兄ちゃんと一緒に見つける眺めを
たくさん逃してしまうかもしれないよね?
もしかしたら休日の一番の思い出を
もらいそこねるかも。
ちょっと落ち着こうとしたばっかりに!
ただでさえ夏の終わり。
お山から届く虫の声はころころ鳴る鈴の音に変わって
今しか見つからない眺めが
いっぱいあるはずなの。
ユキはひとつだけでいいから
お兄ちゃんとそんな景色を見てみたいの。
ふたりだけの──
忘れられない思い出。
ふふっ。
急にお天気が変わるといけないから
家の周りのお庭だけ。
そうしたら
あともう少しと願うだけで
意外と晴れ間は長くて
日陰でお休みしながら歩けたね。
思いがけず晴れ女の才能が目覚めたのでしょうか?
晴れてる間は
なにがなんでもぜったい
手を離さないんだ!
と決めたから。
ユキのそばから
お兄ちゃんがいなくなってしまうことはあっても
ユキがお兄ちゃんから離れることは絶対にないと決めたから。
今はもうユキは
溶けて消えてなくなってしまうことなんて
ないんだから──
晴れたおかげでまただいぶ夏が戻ってきた9月。
お兄ちゃんは暑すぎて大変じゃなかった?
ユキは晴れている間はお兄ちゃんと遊ぶと決めたので
少しの疲れで体が弱いときのことを思い出して
ちょっとくらいくじけそうになっても
だめかもしれない
あきらめるしかないなんて
そんなこと
しらない。
もう弱音を吐くことは二度とありません。
怖い熱中症には注意で
水分補給と休憩は大事なの。
気をつけていたら
きっとこれからまだ歩けるでしょう?
お兄ちゃんと──
もっと見て回るの。
たくさん歩いて回って。
晴れたんだもの。
そうしてもいい日が来たみたいだったの。
とても大きいお兄ちゃんから見たら
ちょっとせまくて退屈なおうちの庭だったでしょうか?
いっぱいあちこちお付き合いしてもらったな──
楽しいこと
ひとつでも見つけてもらえていたらいいな。
ユキはずいぶん
たくさんの世界を
歩いて見て回ったよ!