『お祭り』
そうね……
お祭りね。
世の中にはそういうものも
あるかもしれないわね。
なぜか子供みたいな浴衣を着せられて
なぜか子供みたいな綿あめで喜び
地元の人しか通じない謎の音頭に合わせて
何の疑問もなく創作ダンスをするという
納涼とか地域活性化とかいう名目で
いったい何を祭るのか本来の言葉の意味も忘れ
一夜の騒ぎに興じるだけの
物好きな人の集団のことを指すらしい。
しまっておいたぽっくりをおろして
髪を上げる夏らしい色の髪留めを用意して
無邪気に振舞う年少組だけでなく
支度をする姉様たちも
忙しそうにばたばたしながら
子供っぽい顔になるのは
よほどどうしようもない魔法が
生まれたときから人間の内側に刻み込まれているとみえるわ。
東も西も昔も今も
海を越えてもくだらない記録は無数にあるのだから
人は過去から学ぶもので
わかってしまえば抵抗は簡単となるはず。
そうでなければこまります。
だから私は夏の最後の思い出とか今だけだからとかあらゆる理由にとらわれず
お祭りを楽しむことをやめるの。
ゆかた?
おことわり!
なんで好き好んで知性を退化させることに一生懸命なのかしら。
見た目からして浮かれすぎなのよ。
ゆかたって。
むやみにビラビラしてカラフルだし。
落ち着いた色ならまだいいけど。
そろそろ夜は冷える時期だし
みんなもやめたら?
悪くないでしょ?
焼きそばもかき氷も家にあるじゃない。
夕凪ちゃんも急いで宿題を終わらせなくたって
お祭りに行かなければ余裕があるのに。
そこまで楽しいことは別にないわよ?
地元の小さいお祭りなんだから。
たまたまこの時期にやっているというだけで
特別な思い入れを込めるなんて……
そういう人が世の中にいてもいいかもしれないけれど……
私が興味ないと言ったら
放っておいてほしいの。
月曜日から学校がはじまるので
小学校の友達が、なぜか思い出作りにわざわざ
次の日曜、こんな冴えないお祭りに来るらしい。
もっと有名なところに行けばいいのにね。
その時、案内することになるから
とりあえず明日は予習に見て回るだけにして
特に浮かれた格好はしません。
日曜日になっても
やっぱり普通にしているつもり。
万が一、もう子供じゃないからそんなに楽しみじゃないと主張しても聞いてもらえず
イベントを楽しむことに全力のエネルギーを使う蛍姉さまや
なぜかもったいないと言って人をかまうみんなが
どうしてもというなら
無理な要求でさえなければ
少しだけなら妥協はするから
できるだけ落ち着いた柄の浴衣を出しておいてね。