小雨

『静かな夕暮れ』
西の空が山際から朱色に染まりはじめる頃
ほんの少し冷たさを感じるようになった風がそっと
お昼までのにぎやかさをこっそりさらっていくみたいに
今はすっかり、夜に変わる前の時刻が
落ち着くような寂しいような
とても激しい夏の午後ではないような穏やかさに
変わってきているような気がします。
もう8月も今年はお別れの準備が近づき
夏休みもあとわずかな時間になりました。
こんなにひっそり音も消えてしまうのは
やっぱりもう秋が近くて
蝉の声もあんまりしなくなってきたからなのでしょうか。
それともそろそろ
長いお休みと、変わらない夏の日々の繰り返しに飽きてきた子たちが
頬に触れる冷たい風に次の季節が来ることを知って
新しい何かが生まれる、もうすぐ必ず訪れるその時のために
まだ何をすることになるのかわからないまま
でも、みんなのことだからきっと期待に目を輝かせて
ゆっくり待っているということになるのでしょうか?
いつも元気なみんながそれぞれの部屋でのんびりしているのは
これからどしどしイベントが押し寄せてくるのがわかっているからだって
そうなのかもしれませんね。
まだまだ夏が終わらないでほしいって言っていた
今年のまぶしく輝く季節を一生懸命楽しんできたみんなが
本当はそろそろ心の中では次に迎える楽しいことに向かっていこうとして
一方で、何もかもが激しすぎた夏の日々に
大慌てで、流され続けて、大変なことばっかりだったような思い出ばかりで
早く落ち着ける日が来ればいいのにって
そんなことをずっと考えていた小雨だけが
もうすぐ終わってしまう今の時期になって
たった一人で──
なんだかなくなってしまうのが物足りなくて
いろいろあった夏休みを懐かしんでしまうのは
どうしても、いつも周りのペースに置いていかれっぱなしの
いつもの苦い後悔に近いものなのかもしれません。
お休みの間にずっと一緒だったきょうだい20人。
騒がしくていつまでも終わることがないと信じていた夏は
やがて、こんなにのどかな夕方を連れて来て
土曜日と日曜日のお祭りを最後に
ついに月曜日には私たちの学校も始業式。
どうにか何事もなく無事に毎日を切り抜けて、胸を張って戻っていく日常のはずなのに
寂しがっている子がここにいて
またぽつんと取り残されている。
みんなが喜んでこの先へ向かっていくんだろうなあとわかっていても
憧れているのに背中を追いかけることもできないで
自分の気持ちで進んでとどまろうとしている小雨が
音のない夕暮れに心細くなって
つなぎとめるみたいに軽いうちわを胸に引き寄せて
何にも変わらない自分の中を痛いほど感じながら
今年の夏も
小雨はまるで強くなれなかったなあ
と、つぶやくのでした。
みんなが楽しみにしているお祭りがもうすぐ。
せめてあんまりジャマにならないようになるべく端っこにいながら
楽しかった夏にちゃんと区切りをつけて
新しい明日に向かう元気を
ちょっとだけもらえたらと
許してもらえるかどうかわからない都合のよいことを考えています。