真璃

『あり』
たくましく伸びた夏らしい緑の雑草をくぐって
ぐんぐん進むあり。
青空がお外でいつも探している。
小さくも力強く
炎天下に負けない
ありの群れは
わがやのお庭でも一列になって
ときどき上空から降ってくる青空の手に慌てながらお仕事をするの。
だめだって言っても聞かないんだから、青空はまったくもう。
つかまえて連れて帰りたいのはわかるけど。
そりゃマリーだってフェルゼンと
二人で選んだお気に入りの家具がある部屋で過ごしたいわ。
でも束縛するだけでは恋人同士とは言えないもの。
そんなぜいたくは二人の目と目が同じ思いを伝え合ったときだけよ。
青空もありさんの目を見つめて伝えたら?
その前にすばやいありさんは
さすがに青空ちゃんでは捕まえられないわね。
砂ばっかりひろって
今度こそ、って根気強く試して
あとでちゃんと手を洗うのよ!
ありさんもずいぶん情熱的な子に見込まれたものだわ。
そもそも青空ちゃん、
ありをつかまえたって連れて行けないわよ。
おうちのみんなが困るし。
ありだから。
小さい青空でも言えばわかるはず。
フェルゼンも想像してみてよ。
いつもの夕暮れが秋の気配を感じさせる涼しげな淡い赤の色になって
今年の夏ももうすぐ終わり
よみがえる思い出がまぶしく輝き
やり残したことや続けている夏の習慣がさらさらと音を立てて胸の中を流れる
残り火のような暑さを感じて眺めた
風鈴の音がするさわやかな廊下を
すました顔でありが通り過ぎていくのよ。
どういうこと!?
虫がうろうろしてなんとなく夏っぽいのはわかるとして
とりあえずつかまえて外に逃がすでしょう?
いくらこの夏一番元気で、青空をひきつける魅惑のありだって
あっちこっちつかまえて連れて行かれたら困っちゃうのにねえ。
ありの巣で待っている女王様が
どうしたのかって心配するわよ。
女王様は美しく知的で、りっぱにみんなを見てあげられる
責任感が強くて心やさしいありしかなれないの。
誰にでもなれるものではない。
何があっても女王様は
情熱的にありたちのことを思っている。
とても大変なお仕事をしている女王様と
まじめでまっすぐなありの絆を
マリーたちは想像することしかできないけれど
ただ見守るだけが許されて
他人が入り込むものではないわ。
命の営みというのはそういうものね。
青空ちゃんもわかるわね?
そしたら、いいお返事で
わかった!
って。
青空もすぐ
女王様になる!
って。
あらまあ!
夏の終わりというのに
大きな野望を持ったものね!
あこがれるのは止めはしないわ──
いいえ、人の気持ちを誰が止められるものですか。
それはとても長く厳しい道だけど
胸の明かりだけを頼りに
長い旅を続けることはできるのかもしれないわ。
そうしたら誰もが女王様に近づけるのかもね。
よろこんで、フェルゼン!
我が家に二人目の女王様が誕生するかもしれないの!
先輩としていろいろ教えてあげられるといいな。
マリーにも青空にも夏の宿題はまだどんどん増えていきそうよ。
やっぱりまだ全部やりきるまで
今年の夏は終わらないのかしら?