綿雪

『折り返し地点』
光が揺れる海のほうから潮風が届く大磯は
お昼を歩いてみたらどこかがなぜか
熱い夏の真っ盛りだった頃とは違う。
昨日は電車でおでかけをして、昼間の海辺をみんなで散歩したのは確か
ほんのおととい。
陽射しに負けないくらいはしゃいで
帽子を手で押さえて。
少し風が出てきたことを感じて海を見つめていた
あれは、お友達へのお土産を探した後の帰り道。
ずっとにぎやかでいられて
大勢の声が混ざり合い
夏の暑さに溶けていくの。
なんだかどこの場所でもそれが当たり前というように。
もう長い間変わらず
こんなふうに過ごしていたみたいに
傾きはじめたお日様と歩きました。
まるで最初からここにいて
変わらない夏の日々の中で育ってきた気がするくらいに
みんなといられたの。
帰り支度を早めにまとめて
明日からもまた歩いているかもしれないと思った
この夏はもうおしまいの海辺のお散歩で
風が少し涼しく思えたのは
お盆が終わって暑さが落ち着いたから、ではなくて
なんと台風が近づいているから。
明日のお昼まで降る雨をやりすごして
忘れ物がないか全員でもう一度最後に確かめたら。
そのとき、片付いた部屋に最後に手を振って
笑顔で何も問題ありません、
大丈夫とお返事できたなら
ユキたちの家族は帰り道を歩き
そうして旅行は終わります。
お盆は過ぎても
急に涼しくなるわけじゃない。
台風が通過した後に暑さが戻ってきたら大変だから
氷柱お姉ちゃんは
そうなってもユキを守るからと言います。
半分を過ぎた夏休みの残りを
ぜったい楽しく過ごせるように。
ずっとそうしていたいと願うぶんだけ
ユキがベッドでずっと休まなくてもみんなと笑顔でいられるようにと。
今年願った氷柱お姉ちゃんの思いがぜんぶまるごと叶ってきたのと同じで
まだこれからも続きそう。
だからあんまり暑くなりそうだったら
ユキは氷柱お姉ちゃんにお知らせに行って
甘えなくてはいけません!
無理しすぎないときのため、休憩を取りたいときのため
おねだりをする練習をいまのうちから積み重ねておくんですね。
がんばります!
苦手だからってあきらめない。
甘えることをためらう子はもうユキのどこにもいない。
そんなことより
いつも優しいお姉ちゃんと
夏の暑い日を一緒に歩いてくれるお兄ちゃんがいるんだから。
熱をもっていた海風はふいに今までにない匂い。
冷たかったら言わなくちゃ。
夏休みの次の思い出を
次の季節までの新しい道のりで
たくさん作っていけそうな予感があったら
いろいろなことがあった旅行の毎日に手を振って
明日からまたしても暑さの中へ帰っていく大変な日々があるのは間違いなくても
涼しい風を感じた瞬間から
次の予定と新しいお願いが生まれはじめました。
電車に乗っておうちに帰ったら
残しておいた宿題や
読みかけの本を開くから
そのときはわからないことをすぐ助けてもらえるように
みんなが集まる大きなテーブルの
お兄ちゃんの近くに座らせてください。