『始原』
かわいいという概念は
人をひきつけるものだと聞いた。
かわいい、とは?
私がかわいいとしてもオマエは喜ぶのか?
厳しく怖い容赦のない海晴姉が
たまにやけに優しくなるとかわいいのだろうか?
吹雪がいつか言っていた気がするある研究によると、
美しさとは結局ただの平均値にすぎないようだが
では昔からある黄金比
人をとりまく環境が大きく変わった現代では通用しなくなる?
あるいは根源的なかわいさが存在するのか。
それとも時代と共に人をひきつける黄金比すら変わるのか。
わずかな人類の歴史ではまだ判断を下すこともかなわないのか?
いずれにしても私たち家族が追い求めるかわいさ。
私たちの生活を礎として支えるうちのひとつでもあるかわいさ。
ここまで重要であるならば
もしかすると宇宙の形をつくるもとである
素粒子にはたらく四つの力の相互作用の正体すら
かわいさなのかもしれない。
まさか宇宙を生み出した始まりのビッグバンもまた
かわいさそのものだったのではないか?
形をとる全てが、残らずかわいさの恩恵の元に育ち
肉体もかわいさによって作られ
私をひきつける何もかもがかわいさでできているならば
オマエと手をとることも、触れ合う範囲が広がる距離まで近づく勇気も
かわいさによって作られ科学的なアプローチを待つ
ひとつの自然現象と考えても
問題はなさそうだ。
ないこともないが
それは広大な宇宙の前では小さなことだ。
家を離れた旅行先でもどうやらみんな元気でいられる。
これ以上望むことはないとしても
海晴姉の提案は驚き混じりの歓迎の叫びを呼んだ。
私たちは明日、この時期旬の水族館
三津シーパラダイスを目指す。
そこにはかわいい生き物がいて
美しい景色があるという。
竜宮城ではあるまいし、とは思うが
私たちを導いたかわいさの魅力は
おそらく少々の興奮を伴う貴重な経験となるだろう。
一時間ほどの旅と
いまだ知らぬ初めての地。
明日の天気には少し不安もあるし
いくら現在の滞在地が、子供の頃から慣れている場所とはいえ
長旅に万全の状態と言えるのか
私にはわからない。
だが私たちの過ごす日々は
かわいさか
もしくは別の何かによって支えられているらしくて
まだ見ぬ場所へ挑む家族たちの目は
いままでの旅から多少の苦難を予感しながら
情熱的な期待によって輝いている。
ひょっとしたら私の目も輝いている可能性すらある。
明日は宇宙の秘密に迫るどのような体験をするのか
写真で見るだけでもかわいいものたちに
多くを学ばせてもらうとしよう。