氷柱

『草むしり王』
おそろしい夏。
おもちゃをしまう物置の前に
夏の日差しを深呼吸する玄関から出てすぐそこに
リビングから明るい庭へと大きく開いた足元に
もちろんひまわりが揺れるカラフルな花壇にも
緑色が伸びてもりもり茂り
侵食するように覆い尽くす。
やつらの名は雑草。
いえ、何か本当の名前があると思うけど今それはまあ置いといて。
せっかく生命力豊かに、強烈な夏の暑さに負けず背を伸ばしても
このままでは蚊が出る原因にもなるし
足をとられて転んだら葉っぱで手を切ることもある。
私たちは大事な家族を守らなければならないのだから──
悲しいけど、相手に情けをかけることはできないわ。
死んでもらいます──
と、言ったところでそうたやすく排除できる相手ではないけどね。
なにしろはびこる範囲は広いし。
あんがいがっしり根を張っていてタフだし。
それに夏の暑さが活動時間の限界を決める。
こういった要因により採用できる作戦は少なくなり
結論から先に言うなら、時間をかける以外にまったく手はないのだから
長時間の作業が行える涼しい朝もしくは夕方を選んで
みんなで集まるということになるわね。
ただし朝はラジオ体操が行われ
涼しい時間に勉強の時間をまとめてとることができるから
作業後の入浴が便利でもあって、私たち20人は対策に夕方を選ぶことになります。
さすがにあーちゃんは無理か。
そして、日陰の移動を中心にむしった草の運び役を無理しすぎないように見張りつつ
小さい子に分担する話し合いをして
19人で集まります。
困難な作戦を前にしたとき、使いこなすと役立つ有効な手段は二つ。
ひとつは時間。
もうひとつは手数。
どちらも充分でないなら
あとは人間らしく知恵でなんとかするのみ。
だいたい、草むしりと言っても単純じゃないの。
涼しくなる日暮れでも夏は油断ならないから
熱射病、虫さされの対策は当然必須で
長時間の作業をするペース配分も大事だし
何より手数となる子供たちが喜んで手伝ってくれるように
大事な仕事だということを
行動をもって示さなくてはいけない。
そのあたりがわからない子達じゃないもの。
文句をこぼすより淡々と続けるだけが解決する仕事なのだということを
この身をもって教えなくては。
と、このような理由もあって
我が家に一度限りの草むしり自慢は多くても
がむしゃらな春風姉様やヒカル姉様たちでは務まらない役目。
周りを指導していける立場にあるのはこの私だけだって
海晴姉様も、妹の一人が生まれ持った才能を褒めるのにやぶさかではないようすだわ。
というわけで
苦労がたくさんあっても
こればっかりは、やらなければ誰かがやってくれるというものでもないから
家のことは自分たちで片付けるしかない。
むしりむしって
山と積み
遠くへ捨てては
また積み上げて
気の遠くなるような作業は
いつかは必ず達成できるという指導者の号令の下すすめられる。
三日もあればだいたい片付いて
あとは気がついた人がこまめにむしっておけばそんなに繁栄する雑草ではないから
その時はよろしくね。
ええまあ、私もするけどね。
もちろんよ?
本当に。
うん。
今日は多少何かに影響を受けたらしいダンスの練習で進まなかったとしても
ダンスが上手になってママの紹介でいつかアイドルになれば
いずれはあのAqoursにも会えるような芸能人になれるかも!
トップアイドルへの階段を駆け上がり
やがては草むしりに人を雇えるようになる!
といった甘い夢を見てもうまくいくわけがないことは知ってるんだから。
それにしてもすごいライブだったな──
こう……
デデデデ
デデデン
いえ……
なんでもない。
今、あなたは何も見なかった。
いいわね。
とにかく華やかな世界も、身近な周囲でも
地道な努力が実を結ぶのは変わらないわけで
この私が全力できっちり先導してあげるんだから
いつも自信がある記憶力で覚えたダンスをいっぱいの笑顔で
じゃない、えっと、鍛えた忍耐で本当に楽しく踊れるときのために練習をくり返し、じゃなくて
つまり夕方の涼しい時間は
ちゃんと準備をして、体を動かす作業を行うには効率的だから
明日は蛍ちゃんの頼みごとがあって、なぜか開始が一時間遅れるらしいことを覚えておくように。
あとは、私と蛍ちゃんの部屋には決して近づかず
ほかに何も細かいことは考えないでいればそれでよし。
リーダーの命令には従う、わかった?
伝達事項は以上!
解散!