綿雪

『黒雲の下』
夏が来て
少し前の梅雨までは
ぽつぽつと
冷たい音を立てていた雨のしずくも
このごろはすっかり
激しい滝のような夕立となり
暑かった一日を潤して通り過ぎていきます。
丸く重そうな水滴を背負った葉っぱがふるえて
ぽたりとこぼれたあとには
水辺の匂い。
いくつもできた水たまりがついに乾いてしまうまでのわずかな間が
涼しい風を感じるさわやかな夏の夕暮れとなるのです。
今日の昼間あたりから勢いを増してもくもくと広がりはじめ
まもなく空いっぱいを包み飲み干した黒雲は
まさに雨の予感。
ユキがぽつんと座ってみていると
洗濯物を家の中へ運びこむお手伝いや
肌寒い風が吹き込みはじめた窓を閉めて回る足音で
みんなが忙しくなるまでに
そんなに時間はかかりませんでした。
大きな雨粒がいっぱいに屋根を叩くまでもうあと少し。
この町はその時また白く淡い色に満ち
お出かけの帰り道で途方に暮れた何日か前のように
どこかでお兄ちゃんと並んで座り雨がやむのを待つ妹が
やはり恥ずかしげに小さな声で歌いだしてしまうのでしょうか?
そういうお天気になったので
午後は家の中
もうすぐ聞こえてくる音を待っていました。
ユキの名前は
冬に降る、まばらで消えそうな頼りない白のこと。
だけど夏の激しいお天気や強い風を見ていたら
もしも冬に生まれたら薄くて儚げな雪雲だって
ここではどうにもじっとしていられなくて
大きく育つかもしれない、
そういう気がしてきても
おかしくはないと思うので……
激しい雨を待ちました。
形を変えながらむくむくふくらんで止まらない黒い雲、
揺れてしなる枝の音を呼び込む午後の風。
まもなく夏の嵐。
夕立が降ってきて
少しみんなを困らせたり
ほんのわずか暑さを忘れさせ、涼しくしてあげたりするの。
夏の雲は大きくて厚く重なる雲の黒い色で
しじゅう形を変えながら広がる。
だからユキは
夏の夕立の前は少し
元気になれそうな未来を感じて
うきうきしているようです。
ざーっと音を立てて通り過ぎた夏の雨。
明日もどうやら
急な天気の変化には要注意のようですよ。
日が沈む遠い西の空が
うなりをあげる雲を育てるようにまっくろだったのだから。
激しい雨が
明日も飽きずにやって来て
残った雨粒が光る涼しい午後となるのかもしれません。
この季節のすごい雨の楽しみは
うきうきするのが大好きで
お兄ちゃんに守ってもらえる
ユキだけのもの。
だけど
夕立に驚き
白く霞むお天気の中を
また過ごすというのだから
いつまでも一人だけのものにはしておくのは寂しい。
お願いをしなくては。
明日はおにいちゃんにも伝わるように
特等席へお誘いをしますから
ユキが知っている特別な
夏の過ごしやすい場所で
今度はなんとただ一人ではなく
二人きり。
雨の音を楽しむの。
お願いを聞いてもらえますか?
いいでしょう?