小雨

『山歩き』
すっきりと晴れた空は
手を伸ばしても届かない場所に果てしなく広がるきれいな青。
緑萌えいずる季節の
初夏の色です。
こんなに良く晴れた日は
澄んだ風の吹く山にたくさんの人が登って
あの空に少し近い場所へ向かい
楽しむんだって。
そしてこの時期は
長い足を持った山より大きな妖怪が
どんな山も他にも一跨ぎで
歩いていくのを見かける人が多いらしいと
お兄ちゃんはそんな話を聞いたら信じる?
小雨は──
目をくるくるさせて戸惑いながら
そんなこともあるかもしれないな?
と、思ってしまうほう。
山奥によくわからない見たこともない生き物がいたら
人間がたくさん歩くとびっくりして様子を探りに来るかもしれないですもの。
あんまり害がないようすで
やさしいお顔をしていて、出会った人に気さくにあいさつもしてくれる登山家たちを見たら
近くを歩いてみたくなることがあってもいいと思うから。
小雨はびっくりして隠れてしまうかもしれませんが
お兄ちゃんは、そんな小雨のことを恥ずかしい妹だと思うでしょうか?
ほんの少し時間と心の準備が必要なだけなんです。
でも山の上から景色を見下ろすのは気持ちがいいでしょうね。
お空の上みたいに広がる緑の台地をどこまでも見渡すことができるの。
むずむずして山彦を呼び始めてしまったりするかもね?
小雨でももしかしたら──
ううん、それはまだ時間がちょっとほしいな。
いっぽう私たちは今のところは何が澄んでいるか分からない山に向かう予定はなく
近いうちに登っていく予定の場所は都会の真ん中に誇らしくそびえる大木。
最高高さ634メートルで聳え立つその名も東京スカイツリー
一望するのは屋根の下に並んで続く小さな暮らし。
連休を過ごす人たちが歩く街並みです。
入り組んだ道を進むときは
迷子にならないように
小さい子を連れての旅行は気をつけることがいっぱいありそう!
小雨も麗ちゃんばっかりに頼りきりにならないようにしないと。
お兄ちゃんにも──
いつもいつも甘えてばかりはいられないものね。
ときどきはしっかりしているときもなくはない小雨を見てください。
おでかけの予定はゴールデンウィークの終盤。
それまでにみんなと回りたい予定を話し合って
道を覚えておくようにしないと
小雨はしっかりしないといけないプレッシャーに押しつぶされそうで
心細くてふるえそう。
もう、あったかくなってきたのに!
せっかくのおでかけを気持ちのいい外出用のおしゃれで飛び出していけるように
まだ少し時間はあるから
それだけを頼りにしてよろよろおたおた下手っぴな準備を進めて行きたいと思います。
もうすぐ高いところから見る景色は
山道の困難を乗り越える達成感とは違うかもしれないけれど
みんなで見ることができるのです。
展望台でお兄ちゃんと同じ景色を見るの。
だいぶ大きな身長差が気にならないくらいの地上からの高さ。
その時小雨はどんな気持ちでみんなの手を握っているのか
想像もできない今のうちから
何があってもしっかり目に焼き付けて一緒にいる気持ちを忘れないんだと
決意ができたらいいなあとゆっくり支度をしているところです。