『お届け物』
ヒカル姉さまは体を動かすのが好き。
だから小さい子が遊んでもらおうとしていたら
すぐ先に立って外に走り出していく。
サッカーボールを持っていったり
なわとびをいくつもまとめて抱えたり
よくそんなところを見る。
毎日かというと
いつもではないかな──と思うけど
たまにあることだと言ってみたら
いや、よくそんなことばっかり見かけるという気がする。
だから誘うほうのヒカル姉さまはもういつもの感じで
みんなを連れて行くのに成功して
そのたびに断っているのになんにも話を聞いてもらえない私は
今日も離脱に失敗して仲間に入れられていた。
グローブを最初に手渡されて
時間が来たら順番。
すぐに誰かに替わるつもりでも
交替の時間をお知らせするのは
リーダーシップをとるヒカル姉さまなのだから
しっかり腰が入ったボールを投げるまでは
何度でもやり直し。
周りからもわいわい声援が飛ぶし
早く替わってほしいんじゃなかったの?
遊んで騒げれば何でもいいのかしら?
そう、いつも遊んでいる庭で
今日はたまたま近くにあったグローブをヒカル姉さまがつかんだから
それだけの理由で
遊びの内容はキャッチボール。
よくやるただの追いかけっこよりはまだ文化的な行為ね。
ボールの握り方のレッスンを受けて
うまく切れ味の良いフォークボールが曲がったら
なぜだか投げた私よりもヒカル姉さまのほうがずっと大喜びをするの。
遊んでもらっているのはどっちなんだろう?
いつも大声でとびはねたくて仕方がない高校生のお世話をする子供たち?
みたいな。
あんまり私くらいの年でこんな遊びばっかりしている子はいないし
時間があるときの過ごし方をお友達と話したら
お姉ちゃんたちとお兄ちゃんと妹たちで集まって
ボール遊びをしています。
とは
なかなか言えない。
口ごもってもじもじ。
言い切ってしまったら
なんでもない態度を装って
すました顔をしながら
内心では
どういうことよ……と思っているのが
実は本人だったりする。
まあ、そういうよくわからないなりに続いているのが
私のいつも通りの
ごく当たり前に重ねる毎日。
フォークボール
三回に一回くらいは曲がるようになったかな。
これも成長よね。
半分やけになっているみたいだけど
ひとまず喜んでおくことにする。
年上ってずるいわよね。
こういうときは有無を言わせずに連れ出しておいて
勝手にあれこれ教えておいて
そのままでいるわけにもいかないし
仕方がないから、ようやくこちらからお返しできることが見つかりそうになると
もう先に行って
私なんかにはわからない
大人っぽい遊びのことや高校のお勉強だとか
難しい話をしている。
どんどん進んでいってしまって
やっと少し背が伸びたのに追いつけない。
まあ別に……
背なんか伸びたってうれしくはないけど。
ずっと遊んでもらえるのが普通の時間が続いていくんだけど。
いつまでも、かまってもらえて喜んでいると思われたらいけないと
そういうことです。
はい、おわり!
だからといって生まれ変わるみたいに急に成長するということもないんだから
ボールを受け取ってもらえるだけじゃなくて
投げてくれた全力の球をしっかり捕まえて
さあどうだ、なんて
そんな夢は今のところはあきらめているわ。