氷柱

『雨あがり』
春の天気は変わりやすいわね。
昨日はユキたちの小学校でも始業式。
よく晴れていい一年のはじまりになるって喜んでいた
笑顔もまぶしいくらいだったのに
無慈悲にも厚くかかった雲からは大雨。
まあ明るい笑顔は変わらないままだけどね。
緊張は少し解けたような
短い式だけの昨日と比べて実質的な最初の登校だから
また別の緊張があったような
小学生の心の準備も
意外と忙しいのね。
私たちの学校も今日はまだ本格的な授業ではなく
早めの放課後から時間がずいぶん余ったので
荷物持ちが来てユキたちが喜ぶかもしれないし、仕方なく下僕をつかまえて
帰りは小学校に寄り道。
なに?
私たちが行くより先に帰っているだろうって?
そんなことはどうでもいいのよ。
私がなんとなく行きたい気がしただけだから。
大雨で帰りが怖くて困っているなら様子を見に行った甲斐があるわけで
別にそんなことが全然なく帰ってこれたのならそれに越したことはない。
ほーら。
ちゃんと計算して行動しているの。
どこにも無駄なんてないわ。
んん?
なんですって?
いくら始業式の翌日でも
別に暇なわけではない?
それはまあ……
あいさつもそこそこ、今日から本格的に授業を開始する
せっかちな先生はいるし
授業についていけるように予習するようにすすめられたし
新一年生でもないわけで、今さら自己紹介もって感じで
平常運行で動き出すのは早いものだけど
なんでもいいのよ。
新年度そうそういきなりの雨で
困る子がいるとしたら
そのほうがずっと大事なような
あの黒い雲を見たらなんだかそんなふうに焦ったという
それの何がいけないの!?
文句でもある?
ないわね!
よしよし。
大雨はわかっていたから
体の弱いユキには新学期から無理はさせないで
一日様子を見たってかまわないのに。
人よりちょっと体を動かすのが苦手ならなおさらのこと
その人なりのペースが誰にだってあるものでしょう。
違う?
私は何も間違ったことは言ってないわね?
海晴姉から過保護と言われようとなんだろうと
心配することくらい
私の好きにさせてもらうわ。
いきなり環境が変わるわけだから
ただの雨くらいで
不安になったとしても
ぜんぜん恥ずかしく思う必要がない普通のことであり
わけもわからずほんの少し心細くて
何かあったら一人では受け止められないような気がして
今日だけは帰り道に誰かがついて来てほしかったから
家族に一言声をかけて
いいからついてきなさい! とだけ伝えても
たぶんそれだけでわかってもらえる……
ということにしておく。
今日だけは。
ちょっと今までの春休みから
環境の変化があったというだけ。
すぐに気持ちは落ち着くはずだわ。
激しい雨がやんで
ちょっと静かになったら
別に何も理由がなくても
黙っているなら、あなたがいるくらいでは何も変わらないし
近くにいることだけは
許してあげる気分になることも
可能性としてゼロとは言い切れないから
好きなようにしたらいい。
やっぱりいろいろ緊張して
この時期は自分で知らないうちに疲れがたまるのかしら?
まあ、ゆっくりすれば。
下僕が隣にいるくらいはよくあること。
今さら何とも思わないんだから。