ヒカル

『準備の途中』
すっかり春らしくなったかと思ったら
たまに寒くて震える妹たちが次から次へと飛びついてくるし
なんだかあわただしい。
私はわりとよく体を動かしてホカホカしているほうだけど
咲きはじめた桜たちは困るだろう。
一度開いたら後には引けないし
花だってやっぱりいざとなれば
こうなったらもう女は度胸、という気持ちなんだろうか。
一方、人間たちはといえば
そんなにたくましく寒さに立ち向かうのは無理だから。
恒温動物だから、やっぱりね。
汗っかきだったり今日は冷たい手に息を吐いて温めたり
体温調節をするものだ。
風邪をひかないように
気をつけたりもする。
だからまだもう少しのがまん。
春物の淡い色合いの布に周囲をはばまれ
フットワークが効かず逃げることもできない状況で
縫い物を手伝うのも
今のうちだけだと思うから。
寒さを乗り越えていくいよいよ最後の踏ん張りどころ。
うーん、だけど油断はできないか。
たぶん近づきつつある過ごしやすいのどかな季節が
目を凝らしてきょろきょろ探さなくても時には普通に見つかるくらいの変わり目の頃、
くらいになってきた感じ。
もうそろそろ
蛍の提案で用意しているのも完成しそう。
姉妹おそろいのミニスカートか……
そんな気分になるのがこれからの時期なんだって。
本当かな?
生足を出し
肩を出し
へそを出す。
かたつむりが角を出すのとは
やっぱり違うんだろうな。
春の陽気のまぶしさの中で
つっついても、そう簡単には引っ込まないくらい元気なんだから。
窓から差す日差しも昼の間は強くなって
半分日陰に引っ込みながら
ちまちまとかわいらしい手仕事を──
みんなのざわめきを聞きながら続けていると
ぼんやりしてしまって
どうもこんなに暖かくなったのも
期待だけが見せている気の急いた夢の中にいるだけで
実はまだ長い冬をじっと丸まって
まどろみながら暖かな日を待っているだけだったりするのかな。
だってそんなにすぐに
こわいくらいの寒さに震えなくていい季節がやってくるなんて
話ができすぎていて簡単には信じられないし。
じゃあ明るい日が差すとこんなに暖かいのは
今、いったい誰に包まれて眠りながら見ている夢なのか。
意味もなくつまらないことを疑ってふわふわしている途中にいて
心を許して信じているのは何よりもその人で
いつも甘え続けることができて
これからも、何度季節を重ね次の冬が来ても
春を繰り返しても
私はずっと頼りにしている胸の中で。
それならこんなに暖かくても不思議じゃないって
どちらが夢の中なのか
触れていたいのはどちらなのだろう、とか全然何も知らないまま
いつのまにか指先の動きは止まっている。
あんまり作業が進まなくて
これじゃあ後で蛍にあきれられてしまうな。
勢いをつけて顔を洗ってしっかりしなきゃ!