海晴

『ご趣味は?』
お掃除が得意で
いつもきっちり整頓されたすがすがしいお部屋を見るのが好きです、
と言いたいところだけど
まあ、苦手は誰にだってあるよね!
人はいろいろ。
すぐにできないことは
時間をかけてこつこつとこなせばいいんです。
それでも無理なら……
後で考える、の精神で。
お外の風がまだびゅうびゅう冷たいのなら
こういうときこそ、なかなかできなかったことからはじめよう。
しっちゃかめっちゃかの本棚を眺めると
少々覚悟が必要になりそうで
なぜ、旅行雑誌はいつもぎりぎりで予定の棚に入らなくて床に重ねて置くことになり
文庫本はけっこう逆さになったりちゃんとしていたりが交互に並んでいるのか。
七不思議って言えばいいのか
こんなところにも、世の中は謎でいっぱいね。
研究家が
いずれ現れるに違いない!
はやく──
現れてくれないものかしら?
それまでは私ができることは
こうして時間をかけて一冊一冊を手にとるだけなのね。
必要な本も、とりあえず捨てるかどうか保留する本もあるけれど
もしもここに大事な日記帳が紛れ込んでしまったらと思うと
ぶるる──
どうやら部屋の中まで寒さが忍び込んでくるような!?
かなり怒られるよねえ、たぶん。
一度でいいから
ふだんからちゃんとしておかないからそうなるの!
もうしかたないなあ、
という言葉を
何にも心が痛むことなく言えたらなあ。
一緒に探そう、
こう見えても年季はそれなりなんだから。
みたいなことを。
そうそう!
本題はこれから!
私たちが女の子の多いきょうだいでも
人それぞれ好みはいろいろで
棚の奥から発掘された数々の少女マンガたちは
今まで愛され、何度も読み返されて
たくさんの思い出を残し
やがて長女の部屋から飛び出し
要するにいま、行き場を探している!
星花ちゃんや夕凪ちゃんはもう興味がないみたいだし
吹雪ちゃんはどう反応するか
そもそも読んだことがあるのかもわからないけれど
うちは結構わんぱくな子が多いから
熱血スポーツマンガなどが小さい子たちに読み継がれているのであった……
かつては知らない大人の雰囲気に触れることができた
謎めいた古びた館、影がある住人たちの物語と
私たちの知らない森の中、見知らぬ遠い地にいる主人公たちが抱える
どこか共感できる悩みは
いいものなんだけどなあ?
広い世界を知ることで心が豊かになるの、
と押し付けようとしても
じゃなかった、おすすめしようとしてもすぐ戻ってきちゃう。
なぜだ!?
しんきくさいから!?
こういう気持ち……
大事にしたいのに……
だけど棚にはスペースがないの。
だいたい、お掃除の最中で
おしょうゆの買い置きの場所がわからなくなったと効いて探しに行ったり
庭から聞こえる花いちもんめでさくらちゃんが欲しがるから
これは行かなくては、といそいそ駆け出したりしていたら
雰囲気に浸っている時間はなかなかないんだな……
しまっておけたり隠れ家になるお部屋がもうひとつ欲しい、かも……
いや、いくらなんでもそれはぜいたくだな!
ああ──
せめて、いい雰囲気の本のおすすめをどんなジャンルでも愛してくれて
手元に置いておいてもいいよ、
いつでも読みに来てよ!
と言って大事にしてくれるすてきな人がいれば……
でもこの年になると
なかなかそんな趣味の合うお友達との出会いもないのよね。
ねえ!?
キミも似たような悩みを抱えたことはない?
今こそ出会いたい、
わかってくれる人と!
みたいな。
ないかな……
ないこともないでしょ?
ねえねえ!
むしろ、私の言葉を待っていたくらいでしょ!
どうしてもっと早く言ってくれなかったんだと。
そんな気持ちを伝えるなら今がチャンス。
私の大事なもの
段ボール箱三つ分くらいに詰めたら
喜んで受け取ってくれるかな──
長い時間で目が肥えた海晴のおすすめは
間違いないに決まっているんだから!