『思案』
困った。
みんなで食べているみかんの買い置きが
ついに底をついてしまった。
たくさんあったみかん。
いつも側にいてくれると思っていたみかん。
刺激的でありながらも優しい甘酸っぱさのおかげで
私たちはもうあと少しの時間で冬を乗り越えようとしているのに
だんだん暖かくなってしまった。
今から買い足したら
だいぶ余りそうなこの時期……
一生懸命食べるから、
残さないようにするからとお願いをしても
私はそんなにたくさんは食べられないほうだから……
いくらなんでも一日にみかんを三個も四個もなんて
飽きるだろう。
いつもお互いに惹かれ合う日々の小さな発見がある関係が理想と言える。
その果汁は甘いだけではなく口の中で広がる千変万化の、
宇宙……というのはなんだか違うな。
大洋と言ったらどうだろう……
命を育む母のようなしずく。
まあなんでもいいか。
手足をばたばたさせて
みーかーんー!
と、春風や蛍の様子を伺いながら粘ってみたところで
ちゃんと座るように言われて
話を聞くことになったという結果があるだけ。
霙お姉ちゃん一人のこたつじゃないんだから、と。
思えばこたつの環境と
そこにあるみかんに
どれほど癒されてきたか
いつもこの和室の雰囲気が魅惑的であったか。
長い冬を共にすごし
厳しい寒さも
過ぎてしまえばあっという間のような気がしてくるのも
こたつと
みかんと
おもちと
鍋物
チョコレートと
あんみつと
牛乳と
あと他にもあれもこれも数々の助けがあったおかげ……
いやこれは別にいろいろあるしみかんばかりでなくてもいいのでは?
という気がしてくる話ではなく
それぞれみんな欠かせないものたちのひとつひとつあるべきだと
そういう方向に持っていくつもりだったのに
多くの出来事と共に長く過ごした
なのに短かったような冬を思うと
ちょっと小腹がすいてきたから
何かちょっとしたものでもつまんで
続きはその後にしようかなと思うようになってきたわけであり
いつしかデザートが足りなくなったら私はまたみかんへの愛を語るのだろう。
そして時期が過ぎてどこにも売っていないという悲劇に耐えて
次のお団子とおはぎの時期を迎え……
その前にひしもちと甘酒との感動的な出会いと
それからまもなくの悲しい別れがあり
本当に雛祭りみたいなイベントが毎日あってもいいのにな。
節分は一体何なんだ、めざしって。
めざしって……
栄養があるのはわかるが……
特別な日にわざわざめざし。
時の流れと共にだんだんと太巻きの文化が定着してきたことを今は喜ぼう。
今はおもちの気分かな?
もうなくなってしまっていたら悲しいな。
もっちりした食感を求めてピザなども歓迎したいところだな。
なかったらなんとかピザトーストでがんばろう。
こう見えてもチーズとハムを乗せて焼くくらいはできる。
出来上がりの見た目はどうも不器用かもしれないけれど。
今、腕を引いてオマエを誘う理由は
おそらくデザートがほしくなったときの作戦会議の相手がほしいのと
単に一人では寂しいのと
もしも本などに夢中になってトーストが焦げすぎた場合……
なんだか自分でも、私に限ってそんなことがあるのかなと思いはじめたが
まあいいんだ。
桜色の春の訪れはあとわずかのところで足踏みを続け
人恋しい冬の寒さはいまだ私たちの行動原理となりうる。
ただそれだけのこと。
何も細かい理由など考えても仕方がないから
こんなに寒いのだからこたつとみかんの需要はまだあるのにと
それをわかってくれる人が増えたならラッキーだな、くらいの気持ちで
逃げられないように腕を取る。
長く厳しい季節のうちの一日というわけだ。