小雨

『まだまだチョコレート』
バレンタインデーが通り過ぎて行き
どこでも気がつくと香っていたチョコレートの甘い匂いが
だんだんと入れ替わって
いつもの様子の
お外から帰ってきたときに手を洗う石鹸のやさしい感じとか
シャンプーのシャボン、
それにチョコレートの隠し味に使っていたカレー粉が主役のキッチンだったり
洋服タンスを開くとわかる独特の消臭剤や
おトイレのラベンダーなど
元気な声は今日も変わらないまま
はしゃいだら止まらなかったり急に泣き出したりの騒動の中に
だんだん溶けていくみたいに消えていく。
たくさんのチョコレートはどこへ行ってしまったんだろう?
いえ、戸棚にしまってあるんですけど。
というかまだわりと大量にあって詰め込むみたいにとりあえず片付けてみて
それを知っている小雨はなんとなく
あのキッチンの隅にある使い込んだ戸棚のあたりから
まだ全部を食べきるまで終わらないとでも言うような
強烈なオーラというか存在感を放っているのを感じています……
もちろん気のせいなんですけどね。
お兄ちゃんもちょっとこばらがすいて寂しいという時は
どうぞ戸棚の扉を開いてみてください。
もうしばらくは心配はいらないかもしれませんね。
食べ盛りの頃を過ごす私たちきょうだいも
遠慮なくひとつつまめるくらいの量。
ただ、もうひとつ手を出すのは
今度は食べ過ぎをためらうのですけど。
やっぱりごはんが食べられなくなってもいけないですものね。
こんなふうにして元の日常に戻っていく私たちの日々。
にぎやかで普段できないことや
言えないことだって伝えられる日があるのもいいけれど
特別な何事もなく過ごすのだって
落ち着くのはいいかなと思います。
あまり毎日どきどきしっぱなしだと
小雨はそんな経験がないから
どうなってしまうかまるでわからなくて……
思い出の日はたまに一日あるくらいが
引っ込み思案で、放っておくと何もできない小雨には
だいたい合っているのかな。
昨日の疲れが残っている、というほどではないけれど。
お兄ちゃんはお疲れですか?
小雨はあんまりすごい告白をしたというわけでもないので、
でも自分なりに勇気がいる行動に挑戦してみたあとでもあり
今日は少し余韻が残りつつも、
たまにぼうっと思い返したりなどを経てわりと普通に過ごしてみようとしている
何事もないデーです。
もともと地味な時間を過ごす時間は得意です。
そうしてあんまり特別な日の後という感じでなく一日を送ったら
ふいにつけたエプロンからふわりと
おそらく作っていたときにこぼしたチョコのあとが漂い
少しおなかがすいてしまう
そんな日でもありました!
おいしさで幸せな日はまだ少しだけ続きそうです。
きのうの暖かさが嘘みたいな冬に戻ったあと
チョコのおかげで寒さをこらえながら
それに、ちゃんとごはんでしっかり栄養をとって
もうすぐそばまでやってくる春を待つ毎日をまた続けていくんです。
今度あったかな日差しの日が来たら、次はもう逃げないでくれたらいいな!
小食な小雨もそれなりにもりもりいただいて
ちょっとだけ力をつけて冬を乗り越えようとしています。