バレンタイン

・海晴
日付が変わる頃から激しく音を立てはじめた雨は朝方まで続き
それから激しい春の風が吹きあれたかと思うと
お昼にはこの時期には珍しい暖かさと、穏やかでのどかな日差し。
のんびりしているうちに夕方になったらまたごうごうと風の音!
びっくりしながらお兄ちゃんにつかまって暖かな庭から帰ってくる子たちも
ほっとするココアの香りですぐに笑顔になる。
もう!
お兄ちゃんのために用意してあげた甘い味で
みんなうれしくなっちゃって!
一日のなんだか油断のならない陽気はまるで波乱を暗示しているようで
やはり朝からキミの隣を奪い合い
隙を見て二人で過ごす時間を狙い、
とにかくチョコレートや
なぜか肩もみやらでなにがなんでも喜んでほしいと願い
大暴れする嵐のような家の中。
まあ、だいたいいつもと同じかもしれないね!
それでも今日は、こんな日だからと言い訳にして
お姉さんまで調子に乗って
チョコをあげるだけじゃなくて、食べさせてあげたくなる
そんな違いがあって
いつもよりも愛情を伝えようとしている。
私たちは今年もキミと過ごして
また来年も一緒にいられたらと願っている。
これから起こる先のことは全然何にもわからないのが当たり前でも
今日だけはもしかしたらまたきっと、と
そんな気になる同じ場所で過ごす時間。
大騒動のハッピーバレンタインに、私のこんなうれしくてあふれる気持ちが
少しでも届きますように!

・霙
漆黒にきらめくチョコレートを見つめていると
広大な宇宙の闇を思い
知識欲のあまりに涎までが垂れてくるのは
もちろん当然あってかまわないこと。
何も恥じることはなく
我々は好きなだけ甘さを貪っていい。
この日を楽しまなくてどうするのだ、という気持ちで
チョコつくりに失敗して焦げ臭い匂いも慰め合うといい。
我が家のみんなの愛情表現は
いつでも夜空の星に似て多様で
回転する万華鏡のようにいつも変化を続けるような景色を見せる。
今年のチョコレートも
創作料理への挑戦もあり
予想もしなかった意外な成功と
あるいは贈った相手を微妙な表情にさせたりもしながら
私が見つめる色は変わり続け
家族と共にいるということは私にとっていかなる現象なのか
その意味も思いもこれからどうなるのか知れない
一日という刺激的な出来事。
バレンタインとは騒がしいものだな。
これほどにも家族が私の心を動かすのが当たり前だというのなら
こんな日が多くあって
家族がいくらいてもかまわないと
そんな気分もしてくるな。
私もこんな家族に恵まれる日がいつか来るのかもしれない。
それは愛情の行方次第なのかな。

・春風
にぎやかだったチョコレート作りもほぼ全て無事に終わって
春風も人知れずこっそり試作を重ねて
もう何も後悔なんてせずいられそうなくらい
贈ることができる
あなたが一口で恋に落ちそうなチョコレート。
とりあえず、春風がそういう夢を見るには充分な
結果は渡してみなくてはわからない
そして今日、自信と不安が交錯する気持ちを乗せて渡したチョコで
一口の後にかわいい笑顔を見ることができたら
春風、そんなことあんまりしないはずの
オーバーリアクションなガッツポーズが飛び出したことに
自分で気がついて赤くなってしまうほど
満足のバレンタインだったはずなのに
こんなに喜んでもらえるチョコはずるい、
ずるいずるい
春風も笑顔にしてあげたいのに!
全部もらってほしくて持ち帰ってもいいのに……
自分の作ったチョコにあなたのハートを奪われるなんて
予想外の事件もあるものなんですね!
今日はチョコの力を借りたあなたの幸せ。
これからはずっと私の力であげられたらと
そう願っています。
もう……チョコなんかにはそう簡単には負けないんだから!

・ヒカル
甘い匂いでいっぱい。
くらくら酔いそうなダークブラウンの雰囲気が満ちた見慣れた空間。
朝は普通に過ごそうとしてみても
目玉焼きの味付けがチョコレートを混ぜ込んだ特製マヨネーズ。
バレンタインの日が来たら
あんまり気まぐれでオマエを連れ出して遊びに行くこともできないし
なんだかもったいない。
休日だっていうのに。
だけど、こんな日くらいは女の子らしいみんなに一歩譲ってもいいか。
オマエだって甘いもので元気が出るだろう?
チョコレートならカロリー補給もばっちり!
明日からの活力!
うん、また付き合ってもらうのはもう決めたし
私だって、機能の失敗作が残っている分を
エネルギーに変えて。
あげるのはいちばん良くできた分だから心配しないで。
今日我慢した、あれこれ遠くから様子を見ながら思いついた遊びは
きっと明日から付き合ってもらうんだから。
今からもう、ちょっとだけ我慢ができないくらいそわそわするんだから
せめて暇ができたらうでずもうくらいはしてくれないと
大変になるから。

・蛍
喜んでもらいたくて
天も昇るくらいに、飛び跳ねてしまうくらい
って、お兄ちゃんもそんな気持ちになることがあるのでしょうか?
しかも蛍の手によって?
でもまあいつだって努力はするんです。
今年いくつも用意した普通のチョコに混ざった
中でも特に少し頭をひねってみた変り種は
お米から中華風のカリカリおこげを作って
チョコ風味のあんかけを合わせたあまからい新作です。
やっぱりお米は大事ですもの。
いつも私たちの元気を支えてくれる大地のパワー、
なんて言ったらおおげさか。
でもなんだか、お米を食べないとしっかりごはんを食べたような気がしないことも
たまにないですか?
普段の毎日にしっかり根付いているんだなあというか。
お米。
そういうわけで、なるべく日常密着型にしたい構想からはじまって
迷走しつつも形になった
特別な日のためのお料理。
蛍はバレンタインももちろんだけど
いつも変わらずお兄ちゃんを支えていられたらと願う気持ちで
胸の中はたっぷり満たされているので
どうかこれからも何かあったら
蛍を頼ってリクエストをください。
たまに飛び跳ねながら待っています。

・氷柱
バレンタインね。
製菓会社がこの時期の売り上げを伸ばそうと
伝統的な行事に、本来主流でもない習慣をその場の思いつきで主張したら
あら不思議。
誰も彼もが乗っかるあたりは世の人間の節操のなさがよくあらわれているわね。
まあ寒い時期だし、溶けにくかったりおなかがすいたときにちょうど良かったり
おいしく食べられるからいいんじゃない。
わざわざ手作りする意味はわからないけど
そういう需要があるなら
試してみても損はないわけで
あなたが別にこだわらないというのなら
チョコを手作りする意味なんて全然ないんだけど
だから今年はなんとなく。
気がついたらできていた。
そういう年があってもいいでしょう。
毎年バレンタインなんてしているなら。
じゃあ、そういうことでよろしく。
ホワイトデーもまたすっかりわけがわからないまま根付いた毎年の習慣の一部。
全く期待なんてしていないけれど
せっかく──少しはがんばって作ったものをあげるんだから。
お返しもちょっとは凝ってみせなさいよ。

立夏
できたよーっ!
やればできる!
リッカはできる子でしょ?
チョコレート作りも年々上手になり
毎年の仕上がりが見た目も味も堂々のブービー候補から
自分の評価で、もうすこしがんばりましょうくらいには成長したよー!
……あ、試食はしたから食べられるのはまちがいない。
あんまりいつもキレイにならないのは謎だけど
やっぱり落ち着きがないせい?
でもそのかわり、失敗しても前向きに再挑戦して
めげないから
こうしてできる。
最低一つは、ぎりぎり完成のチョコレート。
努力って大事だし
あきらめないって素晴らしいことだ。
でも落ち着きがあったらなおいいかな?
あーほしいなあー
ホワイトデーにおねがいね!
チャオ!
食べる用にはあげられない元気の分は
ちょーにこにこしたり
飛び掛ったりして
どうかオニーチャンにも
リッカの数少ないとりえ、
いつだって変わらない楽しさが届きますように!

・小雨
もともと独創的な思いつきなんて何も出てこなくて
ふつうに当たり前のチョコが作れたらいいかな?
喜んでほしいけれど
あまり冒険する勇気もないし──
なんて思っていたから
吹雪ちゃんがひらめいて、自分の好きなものだからと
他とは差がつくおいしく冷えたとろけるチョコアイスを完成させた発想は
もうびっくりして息が止まって
そんな技があるなんて思いつきもしなかったと
ほおおーって思わずなんだか高くておかしな声が出るくらいでした!
はずかしい……
すばらしいですよね。
教えられたチョコ作りだけでなく、本当に喜んでもらえそうなものを本気でつくる!
小雨にもそんなかっこいいことができる日が来るのだろうか……
なんて考えていたら
こんな小雨にも、小さい子だってがんばっているんだからって気持ちが湧き上がって
つい熱くなったみたいで
普段なら全然試したりなんてしないような
ホワイトチョコレートを別に作って飾りつけを
蛍お姉ちゃんに教えてもらって、けっこう時間がかかってしまったけれどなんとか
もらってもらえそうなくらいには仕上がったみたい。
小雨のこれまでの人生でいちばん手の込んだ
かつてない!
とまで言ったら申し訳ないくらいささやかな工夫だけど
ちょっとかわいいのを試してみました。
おいしくできているかな。
よかったら、たくさん食べてください。

・麗
いくら努力しても、できないものはできないけれど
一度手をつけたら、なんだかんだで
ここであきらめるなんて嫌だな!
みたいな気持ちにはなるものだから。
仕方がないから人にあげても大丈夫と自分で言えるくらいのものは作りました。
まあ、もらったほうはなんていうか知らないけど
文句を言ったらこちらにも考えがあるというだけのことだからそれはいいわ。
でもやっぱり贈り物だけじゃなくて言葉で伝えるのもいいのかな?
ダイヤちゃんもそう言ってたから、少し考えてみた。
せっかくだから、つたない手作りだけじゃ納得できないし
一言だけ。
こんなこと普段はなかなか言えないけれど
私はたぶん、意外と
自分で思っていたよりもずっと
チョコレートが嫌いじゃないみたいなの。
甘ったるくてさっぱりしてなくてしつこいのが苦手でも
練習中にも、試食のたびにいつも
本当ならおいしいものを、中途半端な状態であげたらいけないなって思った。
だからやっぱり
喜んで食べてもらえないなら奪い返してもいいかなって。
まあ、半分に分けるのでも全然かまわない。
自分の気持ちに素直になるって本当に難しいことだけど
今日くらいは挑戦してみたい。
だからいちばん上手に作った分をふたりで
うまく分け合いっこ。
いいでしょ?
人にもらっておいて文句なんてないわよね。

・星花
バレンタインのチョコだから
年に一度だけのスペシャルを!
そう考えて
頭の中ではまばゆく輝くほどに工夫を凝らし
包みも飾りもこれまでにない新作をたくらんでみても
結局、形になったのは
わりと普段から作ってるとおりのままで
別に何も変じゃないけれど
思っていたのとちがう?
ううん、がんばって作ったし
その分しっかり形になったのは間違いないから
あげるのに何も困らないはずだよ?
なぜだろう?
銀色のリボンが思ったほど赤と合わなかったというか。
おそらく積み重ねた経験の差が
こういうとき、はっきりでるものなのですね!
だからめげないで続けるのがきっと大事。
星花、毎年だんだん上手になっていきたいです。
待っていてね。
でもこういうのちょっと苦手で
お菓子つくりのお手伝いもお裁縫のデザインも
またそのうちって後回しにしていたらたちまち来年が来てしまうから
もー!
どうして、年に一回バレンタインしかないんだろう?
星花がやるぞ! ってなる時って。
お兄ちゃんのためにもっと尽くしたいのに
困った星花ですね。
もっともっと役に立ちたいと
誓いを新たにする日。
バレンタインがそうなんだっていうことがあってもいいのかもしれません。
なんだか子供っぽくてめんどうくさい星花だけど
今年の精いっぱいを
よければどうか受け取ってください!

・夕凪
手に取ったら
ハートにときめく刺激が走る贈り物。
リボンを解くときもドキドキ
期待が高まって
ついに食べたりなんかしたらもう!
きゃー!
夕凪のそういうマジカルウルトラチョコレートは
今年も用意できなくて普通にがんばったチョコレートだよ!
おいしく食べてね!
なんでできないものなのか?
海晴お姉ちゃんは、男の子に教えてあげたいことがいっぱいあって
こうして甘やかしてあげられるときこそ
成長を促すチャンス!
甘え上手に育ててあげるぞーって
あーんの練習してた!
練習っていうか
妄想で行動してた!
夢の中にいる幻のお兄ちゃんを相手に!
だめだよ!
お兄ちゃんはちゃんといるんだから
あーんをしたくなったらすぐ飛んで行ってあげなくちゃ!
というわけで、はい、あーん。
夕凪もすぐ成長するから
甘え上手になっていいんだよ。
そしたら、海晴お姉ちゃんがお兄ちゃんに教えてあげることがあるみたいに
夕凪もお兄ちゃんからお勉強を教えてもらって
そしたらすぐに新しいことが次々とできるようになって
マジカルじゃん!
わーお!
だから次はお兄ちゃんが
夕凪を甘え上手にする番だから
そのつもりで!
じゃ、今度はあまーいの食べたいなー。
優しいお兄ちゃんが夕凪を育てるお勉強チョコはまだかな?
あーん!

・吹雪
かつてギリシャ神話の古い神であった混沌は
今も数学の分野でカオス理論に名を残しています。
世界のもともとのはじまりが混沌や、それに似たものであったという伝説は各地方にあり
つまり全ての源は誰にも制御できないものであると
そのような認識は人の歴史が続いていく過程で
自然に受け入れられた場面が多かったということです。
要するに、何日もかけて前から準備をして
思いつくことを何でも重ねてためらわず
とりあえず味と香りがチョコレートならばだいたい許容範囲、
もう少し訓練を積めばそこからさらに飛躍してもまだバレンタインの贈り物として
話にだけは聞いたことがあるあの闇鍋のような光景が
家中のどこにでも渦巻いて
甘いのか苦いのか逸脱しているのかも誰にも把握が不可能になり
とにかく気迫でこれもバレンタインと言い通した2月14日は
毎年が明らかに混沌としていて
はたしてこのような事態がどのような結果に至るのか
どこかで止めたほうがいいのか
悩んでいても
作業を続けていたら
思いがけなく何も問題は起こらず無事にチョコレートは完成し
予定していた贈り物を届けて
たまには少し予定と違った贈り物になる経験もしながら
いくらかの食べきれないチョコを明日以降に持ち運び
バレンタインは過ぎていく。
今年も家族の全員がチョコを渡せたようです。
これは混沌の効用なのか
なんだか毎年まったく整理のつかない状態を続けていると
混沌のように見える状態が
本当は当たり前のものにも思えてきて
私たちの持つ可能性は
あんがい──
永遠に誰にも理解不能なのではないか。
しかしその結論も諦めが早い気もしますから
ちょうど考え事に都合のいい甘い食品が充分なので
また来年のバレンタインに喜んでもらえるチョコのことなどを考えながら
わけがわからないままどうやら過ごした一日を振り返っています。
お疲れ様でした。
チョコアイスなら簡単なので、明日からのリクエストがあれば
私も調理に参加します。

・綿雪
はいっ!
チョコレート!
バレンタインを迎える時期になると
ユキはドキドキして
だんだんポカポカして
このままだと熱が上がってしまうの?
なんて心配になるけれど
大丈夫!
風邪の症状ではありません!
それは楽しいバレンタインを迎えるときの副作用。
誰だって待ちに待っていたイベントが来たら
落ち着いた立派な顔はしていられないで
はしゃいでしまうものなんです。
こんなに楽しいバレンタインが
毎日あればいいような
年に一回だけだからたのしいような気もするし
どっちなんだろう?
お兄ちゃんはわかる?
もし、お兄ちゃんがバレンタインは毎日でもいいって言ってくれるなら
ユキはやっぱりそうなんだ! って夢中になって
胸が弾んで眠っている時間もなくなり
もう心配事なんて何もなくなってしまうかもしれないのに
なかなかそういうわけにはいかないですよね。
ユキには何もわからないけれど
こんなにうきうきするバレンタインが今日だけなら
もっとお兄ちゃんにお願いして
一年分のドキドキをもらわなければいけないのかもしれない!
ハッピーバレンタイン、お兄ちゃん。
いつのバレンタインもユキのために
いつも一緒にいてくださいね。

・真璃
イベントごとがやって来て
すました顔で興味なさそうにかっこつけるのって
楽しいことを逃してしまいそうで
とてももったいないことだと思うの。
今日はバレンタイン。
年に一度だけ訪れる愛の日。
まるでマリーとフェルゼンを祝福してくれているよう。
こんな日なんだから
細かいことは何もかもおいといて
恥ずかしいかもしれないなんて考えるのは明日からの宿題にして
思いの全てをぶつけて
愛しているって言えばいいのよ。
誰も止めたりなんてしない。
笑う人がいたっていいじゃない。
今日は世界中が丸ごとバレンタインデーなのだから!
マリーたちの家にも愛の気配が訪れている。
せめておいしいチョコを作りたいって
真剣になるのも楽しいものだけど
一番大事なのは、気持ちを伝えることだもんね。
上手なチョコより
工夫を凝らすよりも
あなたのためって考えていてかまわない。
今日だけは女の子から心を開いて気持ちを伝えてもいいの。
うん、明日からも特にためらわずマリーのほうから愛を伝えるんだけどね!
そこはそれ。
楽しそうだからここは都合よく便乗して
フェルゼンにいつも以上の愛を。
届けようとしてなかなか全てはかなわない心の中を
今日限りという言い訳で何もかもさらけ出すことをためらわないで
あなたのために。
フェルゼン!
マリーは心からフェルゼンが好きだって知っていた?
ずーっと忘れないでね。
また来年伝えるときも、きっと真剣に聞いてくれなくちゃだめよ。
そのときも二人は精一杯バレンタインデーを過ごしているのだから。
約束よ。

・観月
贈り物のために身を清め
正装をして
しずしず差し出す
観月の手作りチョコレート。
型で作った品じゃ。
気にいってもらえるとよいがの。
でもバレンタインは
お気に入りの白が似合わないそうな。
チョコが飛ぶからな。
作るときもたすきがけのうえから
こどもむけエプロン。
胸元をひよこがあるいているやつじゃ!
うーん、となると
朱の巫女袴でかしこまって
かっこいい顔をしてお渡しするのは
どうも雰囲気が出ぬな?
そこで蛍姉じゃにそうだんをして
結果、きっちりとした姿で決めたのが
これじゃ。
チョコのほろにがな色合いを意識した
ぴしっと大人っぽいズボン。
できる上司のイメージ
じゃ!
めがねは伊達じゃ。
くいっ。
しっかりした正装というか
おどろかせたかっただけなので
こういうサプライズも贈り物だと
そのような話であった。
ふだんよくがんばっている
立派な兄じゃに
しっかり者のわらわも
感心しているという感じじゃ。
よくできました!
まあ、たまに珍しいことをするのもいいが
本当はこんな肩肘を張った格好ではなくて
できれば側に寄って
このバレンタインデーの混乱に乗じて兄じゃの背にいろいろ溜まったあやかしを
こんどはきちんといちばんのお気に入りの正装で
根こそぎきれいにするのもお役目。
おまかせじゃ。
痛くなどしないから
逃げるでないぞ。

・さくら
せつぶんには
おにがやってくるの。
ねこの日には
ねこがくる。
2月はおきゃくさまがいっぱい。
おまめやかつおぶしでおもてなしするの。
バレンタインデーは
なにがくる?
さむーい2がつ
でも、わいわいにぎやかな2がつ
ふゆしょうぐんにのってやってくるこは
だれだろう?
バレンタインデーだから
チョコレート?
そんなおはなしをしていたら
はるかおねえちゃんがおしえてくれたよ。
やってくるのは
むねのときめきをそだてるキューピッド。
うちぬかれると
きゅんってするよ。
お兄ちゃん、しってた?
おそらをとんでくるんだって。
どこにでも
ハートのきゅんっ、をとどける
はねのはえたてんし。
こいのはじまりを見つけたら
のがさずうちぬく!
だれもにげられない。
さくら、むずかしいこと
よくわからないから
キューピッドがきたらお兄ちゃんのうしろにかくれてしまうかも?
ぎゅーってはなれないでだきついて
チョコがとけてしまうかも!
はい、チョコレート。
とけないうちにあげます。
バレンタインデーがきたら
いつでもお兄ちゃんにチョコをあげるのは
はねのはえていない
さくらなの!

・虹子
おにいちゃんに
にじこのてづくりチョコレートをあげる。
かたにながしこんだの。
ちょっとこぼれたけど。
えへへ。
ハートのかたち
おほしさまのかたち
なんだかもじゃもじゃしたかたち
ぜーんぶあいがつまっているから
のこらずあげます!
だーいすき!
おにいちゃんは
チョコがすきで
にじこもすき。
ちょっとまってて。
……
はい!
まだチョコあるんだよ!
あまっているの。
しっぱいさくっていうの。
キッチンにいっぱいあるからあげる!
いいこのにじこだ。
やさしいね!
おにいちゃんのおひざをかしてね。
あったかいとこにすわって
おいしいチョコレートたべるにじこ。
こんどはこぼさないからね。
んんっ!
ぱさぱさしてる!
しっぱいさく、びみょう……
おにいちゃん、はいどうぞ。
わけっこして
たのしくたべます!

・青空
くんくん。
いいにおい
するねー?
どこだ?
あまーいちょこ
こっち?
あっち?
ちょこだらけ!
おのみもの
あったかいここあ、のむよ。
あまい!
ちょこ!
ちょこのひは
おいしいから
たべちゃお!
ここあ
おかわりー!
おにいちゃんのも
おかわりー!
ほたがよろこぶ
まだまだあるから
おかわりほうだい
ここあ。
あっ
ぴちゃっ
こぼしちゃった
ねえ……
そら、ふくに
ここあがついた。
あまーいにおいに
なっちゃった。
ちょこになった!
ちょこのひだから
しかたない。
もりもりのんで
ちょこあじになって
そら、たべられるー!
おかわりほうだい
おおもりそら
ちょこあじ
たべる?
きゃー!
おいしいよ?
はしってにげろー!

・あさひ
ぷっちぷー
ぽっちゃ
はにゃ
ちゅぶるるちゃ
むーばー。
むわっばばば
おんば
すぴー……
(ちいさいあさひが
 つかまえたいものは 
 ちょこよりも
 おにいちゃん!
 ねむそうなところをつかまえるのが
 こつだよ。
 つかまえて、はなさないで
 あそんだら
 あさひもつかまえやすいよ……)