春風

『放課後スクールワーク』
金曜日です。
一週間お疲れ様でした。
これからはじまる週末の二日間は、暖かくなり雨の予報。
外出には少し向かないお休みになるかな……
やはりここは家で過ごすのがいいですね!
密かに口実を作って
ふたりきりのバレンタインデートに連れ出したい計画もあったみたいで
春風は話をしているところに飛んでいって
王子様はみんなのものですよ、
と注意したのだけれど
おでかけ……
その手もあるのか、と後になって惜しいことをした気もして
でも、だめって言ってしまったものは仕方がないですね。
みんなに注意しておいて春風が勝手なことはできないですから。
だからもし王子様がおでかけする予定ができたら
そういえば春風もちょっとそこまで行く必要があるんです、
ということがあったらいいなと考えているくらいにしておきます。
用事があったら遠慮なく言ってくださいね。
春風がいる限り王子様が一人になる寂しい思いなんてさせない。
今年のバレンタインは
日曜日なんですから!
曇り空の中を学校から帰ってきたら
女の子たちで集まって
蛍ちゃん先生を囲んで手順の確認。
今年の贈り物の情報交換なども熱心に行われ
小さな手のひらとお姉さんたちがぎゅっとつないだ手に決心を伝え合う
それぞれのやむことない向学心を目の当たりにした蛍ちゃん先生は瞳を潤ませ
先生はうれしいです、
おそろいの制服など用意しておけばよかった、
などと言い出すの。
それはいいと思うけれど……
大事なのはそこではないですよね?
まったく蛍ちゃんはうっかりしがちなんだから。
明日のチョコ作り参加者のエプロンの相談も始めるものだから止めたけれど
はたして本当に蛍ちゃんがは他の人が止めようとして止まるものなのでしょうか?
王子様も言ってあげてください。
ちゃんと思い出させてあげて。
今からチョコ作りの場面を写真に残そうとはりきるよりも
チョコをもらうのがいちばんなんだって。
せっかくならチョコをもらったときに二人で写真を撮るのが
女の子としてもうれしいんじゃないかなあ、
その時を想像したら
チョコ作りも楽しくて本気になって
もうエプロンも気にならなくなっているのではないかしら?
多少、材料をはねてよごしてしまうくらい夢中になってしまうんじゃないかな。
ただ一人のことを思い浮かべながら
胸の中まで甘い気持ちで満たされていくから
このまま私のことももらってほしいのにな!
というお菓子作り。
ウフフ──実際はお菓子くらいで恋が生まれる展開にならないことわかっているし
今までだって特においしい時間のあとに発展することもなく
すべてただの妄想なんだけど。
でも、もしもうれしそうに食べてもらえたら
私の心はどんどん甘くなっていくのに
こんなに育ったハートをどうしたらいいのか!
もしかしたらこれからそんな経験をするかもしれない
いとしい小さな妹たちにも教えてあげたいのだけれど
春風でもまだどうしたらいいのかわからない
鳴り続ける胸の鼓動。
チョコに添えてあげることができないなんて
もったいないな!
でもしかたがないから、その盛り上がるエネルギーで
喜んでもらえるものを作りたい──
願うだけしかできないので
どうか──
春風の心があなたのうれしい時間を生み出すきっかけになりますように!
もう、こらえきれないで弾んでしまうようだから
押さえるつもりで胸の前で手を組んで
むずむずしながら
落ち着くことができないまま
明日は春風も先生になり
手順を確認しながらあわてないでね、
なんて教えることになるの!
自分に言えー!
ですよね?
ああこわい──
まあ、いざとなったらなんとかなるでしょ!
生徒たちみたいにいろんな表情にころころ変わって
迎えるその時。
春風は明日のチョコ作りに全てをかけるの!
そしてバレンタインを迎えます。
はたして、本当に──
王子様は臆病ですぐ弱気になる女の子の
ふるえる手をとってはげますといったようなことには
興味がないでしょうか……
そういったなんだかんだで、日曜日のバレンタイン当日を待っていてくださいね。
春風は今から汗びっしょりですでにだいぶねとねとになりながらも
今年のただ一日の
たった一瞬のときのためだけに
あたふたしてどうしようもなくなっていますから
ええと、あれ?
ともかく、あ、安心してください!