観月

『冬将軍』
大空から街を包んでぐんぐん押し寄せる
やつの名は冬将軍。
巨大な両腕を広げて
ちっぽけな人間が立ち向かうことはできず
ああおそろしい、と布団にくるまって
やがて去るのを待つ相手なのじゃ。
弱点と言ったら
どうしても春の気候には勝てないことかの。
春風姉じゃがこのごろ防寒に張り切っているのも
やはり好敵手が出現したのが理由なのか。
それともかわいい服装やしぐさがすきなのか。
だとすると春風姉じゃはアイドルになれるであろうか?
しかし、ママが誘っても答えず
鼻歌を歌って大きいお尻をふりふりしているのが楽しいようだから
わがやのアイドル主婦というところか?
家族の身を守る力が強く
厚着でもこもこにするお仕事。
そして遊んで暑くなったら脱ぎ捨てるのが子供のお仕事。
すれ違う思いが一瞬わずかに重なるのは
お風呂あがりのあったか湯気が立つ体を拭いてもらっているときか。
しかし、もっと小さいさくらも
がんばって濡れた体を拭こうとしているのだから
わらわが甘えるのも恥ずかしいな?
いや、だがな……
みんなが一人でできるようになると春風姉じゃがさみしがって
さみしいさみしいとくねくねするから
春の勢いを増すには
ときにはいっさいためらいなく甘えるのも必要なのではないか?
甘えたがりの素直な子が
何かこう正義感やら何やらで春を呼ぶ童話やらがわりとあるような
甘えすぎてわがままをお仕置きされて反省する童話などもあるような
はたしてどうなるのかよくわからないので
そこは自分の気持ちに素直に。
春風姉に甘えて体を拭いてもらって
お返しにこちらからもごしごし濡れた体をきれいにしてあげるという
そのくらいがいろいろ釣り合いそうじゃ。
冬将軍の正体は
まるごと大きな冷たい空気だという。
まさかそんな?
あんなに激しく強い風の正体が
実は大きな空気のかたまりにすぎぬのか?
世の中は
なかなかいろいろな仕組みが回ってできているということか。
大風に乗ってやってくる、きかん坊な巨人の意思が
日本全国あまねく包み、風や雪を運ぶのだから
そんな暴れん坊が相手では、
冬の寒さもなかなか大変だというのもわかる気がするな。
何かお供え物でもして心を和らげてもらう手は
甘いものだとか
おなかにたまるものだとか
あたたかいお汁に七味で味付けしたりする
たまには刺激的な辛いものだとか
いろいろありそうだがな?
あまり聞いたことがないな。
冬将軍を相手に人間がそれなりにうまくやっていく方法というのも
やはり、あったかいところでのんびり時を待つくらいのものか。
わらわのおうちには囲炉裏端はないが
まあ経験豊富な姉じゃたちがたくさんいるし、兄じゃもいる。
わりとなんとかなるであろう。
わらわもその力に甘えたり
たまにはお疲れ様で甘えさせてあげたくなったり。
そうじゃな……
肩を揉むくらいのことしかできないが……
あとはお皿洗いやお掃除などか。
むむ……なかなかいそがしいぞ。
まだこれからが厳しい寒さとなる冬の季節の長丁場。
なるべくあせらず春を待とう。
その日はいずれ必ずやって来る……はず。
こんなに寒いと本当にそうなのか疑問に感じるときもあるが
おうちのみんなで一斉にそろって春を迎えるのじゃ。
やがてお庭でも雪景色に芽吹く梅。
急いでも仕方がない。
冬将軍のご機嫌に任せて暖かくゆっくりと待つことにしよう。