吹雪

イノベーション
夕凪姉の発想はとても奇抜で
従来にない解決策を提示する可能性があると思います。
たとえば誕生日に贈り物があるということについて
非誕生日を提案した文学作品は過去にもありますが
具体的に実現のアイデアを考えるとき
地球が太陽の周囲を巡るサイクルが公転で
これが一年を規定する基準であると数日前に説明した
私の話を記憶しており
つまり一日で太陽を一周する軌道の星にいる、
私の言葉で補足すると自転周期と公転周期が一致する惑星が
居住環境である場合には
誰でも一月一日の誕生日を迎えた翌日がまた一月一日で誕生日となる
このシステム。
誕生日の贈り物を毎日もらえる夢への
非常に重要なヒントになるような気がして
さきほどまで時間をかけて考えてみましたが
はっきりした結論は出ませんでした。
まだひとつふたつかそれ以上の難点を乗り越える必要がありそうですね。
この話は夕凪姉が夕方、さくらと遊んでいるときに
いちばん大きくふくらんだシャボン玉がとうとう破裂して
おどろいてさくらが泣いてしまい
そのまま家に戻ってきたのを見たユキが
あまりに悲しそうな顔を見て
慰める言葉も思い浮かばないようすで
まったく事情がわからないまま二人で抱き合って
悲しそうに泣き出してしまったために
なんでも願いが叶う誕生日の贈り物に頼ろうと考え出したことらしく
隣で観察していた私も
小さな妹が泣いている場合には
ガラガラを鳴らすか両手でぬいぐるみを躍らせるくらいしかできないため
あまり今回は有効な手段でなかったので……
それを聞いて考えてみたのです。
しかしそこまで大きなシャボン玉は
いくら誕生日が来たとしてもなかなか作ってもらえるものではありません。
シャボン液やストローに工夫を凝らすことはできても
気象条件や作る側の当日のコンディションもあります。
充分な知識を持つ人は、今までの遊び方から考えて
この家に住む家族という小規模の人数の中には今のところいないと思われるので
運よく詳しい専門家を招く機会などがなければ
私たちが自分で実験を繰り返すことによってしか解決できない。
誕生日のお願いは確かにすばらしいけれど
今回に限っては難しいことが多く……
といったことを考えていたら
さくらはおやつのにおいに気がついて、喜んでうがい手洗いに走っていく。
ユキはあわててついていく。
夕凪姉もすっかり悩み事がないようなさわやかな顔をしてとびはねる。
ということで私が一人で考えていました。
そして答えは何も出ませんでした。
もしかしたら難問を解決するときに最も有効な手段は
私の知識にはなく、さくらや夕凪姉が実はもう知っているのでは?
しかし……
仮にそうだとしても、私が同じ方法で
今から自分の悩みを解決することはできそうになくて
どうやら別の方法をいつも模索しながら
遠回りをして、行き止まりにぶつかったら引き返し、
くり返し前に進まぬ作業を重ねて
あきらめずにゆっくり長い時間をかけることが必要──
なのだと思います。
自分ではそれほど短気なほうではないと考えているので
どうも困難な道のりのようになってしまう言葉ほどには悲観はしていない。
たぶん現時点ではこの方法が好きなのでしょう。
明日くらいまでにはたぶん
ちょっと前、誕生日にほしいものがあったのを思い出して
何か忘れているような気分をすっきりと見送っているのだと思います。
メモを残すことは大事ですね。
確か現実的ではないような気がしてそのままにしておいたせいだと
そんな記憶が少し。
夕凪姉に相談してみてもよかったのかもしれません。
キミに相談することを思いつかなかった理由は
おそらく、キミに関係することで無理がありそうだったからであるはずです。
確かそうだったはず。
人は忘れるようにできている生き物ですから
思い出せなかったとしてもあまりいつまでもこだわらない予定です……