氷柱

『残ったものと生まれるもの』
今から約50年くらい前の1965年は
生物学的に大きな発見があったことで有名。
イリオモテヤマネコが初めて標本として入手できた年。
生きた形で捕獲されたのはその2年後なんだって。
それから宇宙開発の歴史では
ソ連の宇宙飛行士アレクセイ・レオーノフ
人類初の宇宙遊泳を行った。
ガガーリンが人類で最初に
宇宙飛行を成功させた1961年から4年後。
長い期間なのか、短いのかは知らない。
やがて人類の大きな一歩のひとつとなる
アポロ11号の月面着陸は1969年──まあ、それはまた少し別の話。
正確に言えば、今日この日から数字では49年前。
あと10日ちょっとでもう50年前になる、ずっと昔のお話。
人の心に刻まれる作品を多く残した作家で、名編集長としても有名だった江戸川乱歩
本当に、とてもたくさんの人に見送られ、惜しまれつつ亡くなりました。
今も日本の文学界に影響を与え続けている一人。
私のクラスはこう見えても進学クラスで
やけにいろんな趣味に無意味に興味を持っているというか
まあ知的な文化活動が活発なことにかけては
少し面倒くさいところがあるくらいなので
好きな作品はやっぱり手に取れる形で
一冊の本として持っていたいという意見もあるし
中学生のおこづかいでは、文庫本であってもそこまでたくさんは買えないから
図書館で借りて読んだ作品を家でも青空文庫ならゆっくり読めるのはうれしいとか
まだ未読の有名な作品も多いから、とか。
来年になって没後50年の著作権が切れて
大作家江戸川乱歩に触れる人が多くなることで
まあ文学好きな人も少数いるみたいだから
そんなどうでもいい論争をこのごろは何度か聞かされていたけどね。
知らないわよそんな人。
どうでもいいことじゃないの?
と思っていたけど
今日は学校もお休み。
趣味にこだわりのあるお友達ともいったんバイバイ。
おうちでもあんな話を家族にしているのかしら?
まあ雰囲気次第で好きな本の話はするだろうけど。
なかなか言えない趣味の話を
面倒くさいような顔でもちゃんと聞いてくれる友達がいるっていうのもありがたいことだし
今日は何をしているのかは聞いていないけど
どこかで、心の広い私のありがたみを感じていることでしょう。
なんて考えながら
ふと何気なく青空文庫を眺めていた。
名前だけ知っている作家の人や
教科書の写真で知っている作家さん、
図書館でよく読んだことのある作品も。
小さい子に聞かせてあげるおはなし、
私が小さい頃に何度もせがんで聞いた童話だってあるの。
なんだ、元ネタはここからなのか。
みたいな。
知ってる?
江戸川乱歩
海の向こうの昔の作家の名前を借りたダジャレのペンネーム。
グロテスクで変な味ばっかりで
他の人では誰も真似できない作品をたくさん残したって。
50年なんて言われたって
まだ10代の私たちにはぼんやり想像するくらいのことしかできない。
自分が50年を生きたときのことなんてね。
そんな昔のお話が
時代を超えて読み継がれ
それを今でも愛する人が大勢いる。
当時を生きていた人も、もうきっとおじいちゃんやおばあちゃん。
PCやスマホではその方たちには少し読みにくいだろうけど
今の若い人たちが、来年になって読めるのを楽しみにしているって聞いたら
それってやっぱりうれしいものなのかしら?
まあ、忙しい年末を過ぎて
来年になってからのお話。
もしも、いつだって勉強に気が進まない人がいて
世話を焼かせる私のきょうだいが
全員残らず無事に学校の試験を追試も何もなく突破できて
それでまあお正月には、少しほっとできるのどかで暇で無駄をもてあます時間ができたら
話に聞いただけのそんな昔の人の残したお話を
今の人がいろんな思いで伝えようとしているみたいで
面倒くさいことを言いながらうれしそうに待っている人がいっぱいいるようだから。
ま、時間ができたら
あなたも教養ということで目を通してみたらいいんじゃないの。
私だったら読んだ感想だって話ができると思うし。
お正月って暇だから。
でもそれまでは大掃除やらクリスマスで結構バタバタしそうだし
ちゃんと今現在、自分の人生で明らかに大事な学校の試験を
何も来年に不安を残したりしない立派な成績で乗り切って
心落ち着く新年を迎えられたらの話。
それに谷崎潤一郎の作品が青空文庫に収録されるのも来年の同じ時。
耽美な作風で独自の美意識をもった世界を広げ続ける生涯を送った作家……らしいわ。
歴史に残る偉大な作家を二人も失った年、
その頃の人はどんな思いを感じたのかな──
まさかびっくりするような長い50年を経て
こんなふうにまた多くの人に読まれる大きな転機が訪れることを
当時のどれほどが想像していたかと思うと
わけがわからないことばかりでありえないような、くすぐられるような変な感じ。
今の私がくすくす面白がっているみたいに
その時の人たちも、未来の私たちから話を聞いたら笑っているのかもしれないわね。