『ハーモニカ』
ぱかぱか
ぷかぷか
お気楽な音が出るあれ。
息を吹き込むのだと、音楽の時間の楽器は
学校で習うのはピアニカ。
やっぱりどうも、響きは少し明るくて軽い気がするわね。
体に響く低音もいいものだと思うけど
それだと楽器が大きくなるみたい。
そうね。
重く線路を駆けていく音が気持ちいいからって
音楽室に持ち込むなんてできないし
楽器でもない。
仕方がないから、学校で私たちはピアニカ。
やるからにはできるだけ上手になるよう練習しないとね!
恥ずかしがる子とか
めんどくさがる子とか
宿題の発表の時間だけやり過ごせばそれでいいとか
それぞれ目標はずいぶん違うけれど
私が好きなように上手になればいいの。
軽薄な音かな……って少し気になるところはあっても
問題は子供っぽすぎる学校の授業であって
私の、水色のピアニカではないのだし。
お部屋で練習して
立夏ちゃんの動きがぷかぷかしていても
ありだろうとか変だとかは
特に思うことはないわ。
家の中だと、どちらかというと
おもちゃのハーモニカが鳴っていることが多いかもね。
小さい子たちが
飽きずに、ぷうかぷうか
気ままでへんてこなメロディー。
音符にしたら一目で
これはなんだ! って
……なるかも?
わかるものなのかな?
クリスマスが近づいて
みんながうきうきしている、というわけではたぶんなく
悲しいことにこれが平常運転。
子供のすることなんだから、多少は我慢しないと!
遠くのほうで鳴っているうちは
進行方向をくるっと変えて近づかないようにしたり
耳を指に入れて知らないふりで気にしないでもいいし
もし近づくとなったら、まあ最初から覚悟をしてから向かうのだからいいの。
ただ、相手もあんまり丁寧に気を使うって年でもないから
知らないうちに近づかれて、すぐ後ろからぴーって鳴らされたりしたら。
それは私だって
お気に入りのきんと高い音のする金の笛、
ついついうるさくすることはあるけれども
人のことを言えないとかは関係なく
びっくりするものはびっくりするでしょう。
誰だって。
夕凪ちゃんは寂しいと死んでしまう世界で唯一の生き物だから
うるさいくらいは慣れっこかもしれないし
喜ぶのもわかるのよ。
だけど小雨ちゃんは
恥ずかしくて顔が真っ赤になりすぎて死んでしまう唯一の生き物かもしれないし
びっくりしすぎても
あんまりもう
ふあー!
ふわあー!
横で何事かと見上げているあーちゃんと一時的におんなじみたいになっちゃうから
もうちょっと心配してもいいと思うの。
びっくりしたらすぐ死んでしまうかもしれない。
世の中にはいろんな子がいるんだから
もうちょっと怖いことから守ってあげて
ときどき気にしてあげてもいい小雨ちゃんなのかもしれない。
青空ちゃんが後ろからちょこちょこ何かを狙っているとき
小雨ちゃんが全く気がついていない様子だったら
むむっ!
って、緊張感が走って
何が起こっても対応できるような姿勢で。
ハーモニカは青空の小さなポケットからは
わりとはみ出しがちだから
驚かそうとたくらんでいたらすぐにわかるわ!
小さい悪魔と
パンの角笛。
よだれでべとべとしがちなところがあっても
なかなかのくせもの。
あんまり汚れていたら、洗ってあげないといけないかなと思って
洗うからね、って説明して
ちょっと借りようと思っても
そういうときはすごく意地を張るの。
誰に似たのかしら?
やっぱり乱暴でガサツで大雑把なところは
お兄ちゃんべったりだから影響を受けてしまったのかな!
そんなとき、優しく小雨ちゃんが
おねがいねって
辛抱強く説得して
どうにか渡してもらえたら
小雨ちゃんも、命を狙う恐ろしいハーモニカだから少しくらい注意してもいいのに
きれいきれい
よかったね!
だけで返してしまう。
目の前で、ごきげんですばやい動きの青空に突然大きな音を立てられて
ぷかーっ!
ほわあ!
って。
あなたもたまには小雨ちゃんを守ってあげなくちゃ
驚きつかれてどうにかなってしまってからでは遅いのよ。
どうにかなるって
どうなるかよくわからないけど
繊細な小雨ちゃんのことだから、私には思いもよらない驚き方をしても
おかしくないかも。
明るい間抜けな音が近づいていても
油断しないでね!