小雨

『ガールズトーク、おそらく』
お兄ちゃんはこのごろ
失敗したり恥ずかしかったりすることありましたか?
小雨は……
みたいなお話を、お茶の時間にみんなとしました。
おべんとうを落としてしまったり
お茶のカップが転んだり
駅のトイレから出てきてスカートを下ろさないままだったり
ああ……
とか
ああー!
とか言いながら。
誰だって間違えない人はいない!
お兄ちゃんもそうなんだよ、
くじけない心がだいじなんだそう。
お姉ちゃん達からのアドバイス
というよりは
様子を見ていたらどうも
ひとつひとつを全部がっかりなんてしていたらきりがないから
泣いて悔しがって
落ち込んだら
とりあえず、前を向かなきゃ
いつまでもうつむいたままになってしまうから。
そんな心がけのようでした。
小雨も悲しいことがあったとき
忘れるなんてできないけど
きっとこれから同じ失敗をしないように
気をつけて──
べつに気をつけたからって、もう失敗しないなんてことはないけれど
そこはなるべく
できたらいいな、と自分の胸に一応メモして。
目立つ色の付箋や
ちっちゃくまとまりがちな小雨でもぎりぎり可能な大きな字で描いて
忘れないように、というのはいいことだから
大丈夫。
明日に進んでいけるよ。
そう心に決めた小雨なのに
なぜかまだうつむいて
はずかしいな──
かなしいな──
気をつけていても繰り返すのは
とってもつらいと
湯気の立つティーカップに目を落としている。
いま涙が落ちた?
豹県に大きな波が立ったのは気のせい?
やさしくて明るいお姉ちゃんたちと
そこぬけに元気なパワフル妹のみんなに囲まれながら
いつまでも大騒ぎのお茶会。
きっとすてきなみんなに
これからいいことがいっぱいありますように。
そんなふうに小雨だけがさみしくほほえんでいるみたいです。
性格だからしかたがない。
ほんのときたま前向きになれる
火花のような静電気がはじけるのと似た瞬間に
にぎやかな家族の影響で、悲しいことは忘れて明日が来るのを待っている小雨がいるの。
必ず今日みたいに楽しいことばっかりの日になるんだなって思いながら
お布団から元気に飛び出して、窓を開けて光の中へおはようのあいさつ。
たまにはあるかもしれない。
だったらいいな……
たいていは
とっても仲のいい子や
麗ちゃんや立夏ちゃん、
小雨がだめな子でも大きな笑顔で包み込んでくれるお兄ちゃんにだけ
聞こえたらいいって神様に祈る小さな声で
うつむきがちの、おはようございます。
朝から辛気臭いかもしれないですね。
あの……
明日の朝は寒いみたいで
いちにちしっとり気温もそんなに上がらない予報だから
小雨はみんなのためにもう少し、明るい声で
みんなの心も暖かくなるようなお話できたらなって
思うの……
むりかな……?
ぴっかぴかおひさまにはすぐなれないですけど
こう、ほっと手の中でぬくもりをくれるあんまんとか
ココアとか
おでんあたりを
どうにかめざして。
おだしがよくしみていそうな色や
かつおぶしの沈んだ後のちょっとにごった底のあたりに
ああ、みんながあったまってくれたらなと願いながらゆらゆら昆布みたいに
揺れているタイプの女の子というか
地味なだけというのか
えっと……
なぜか急におなかがすきそうな話をはじめてしまって
なんだろう……
胃が動き出して困ってしまったらごめんなさい……
あの……
甘さ控えめのクッキーも確かまだあったはずだから
どうしても何かつまみたいなっていうピンチのときが来てしまったら
ほんの少し力になれるかもしれないの。
なんとかできるだけのことをさせてください。
チョコとバニラの優しい色も
派手な感じではないけれどみんなの活力になってくれて
あんまり無理をしていつもきらきらしないでもいいのかなというか。
親近感があるなんて言ったら
色合いを抑えてもおしゃれなお菓子たちに笑われてしまうかな?
かわいいお菓子も
いいにおいの暖かい食卓も
小雨のあこがれ。
自分に重ねては
いつもなかなかなれそうになくてつらい
小さななきむし小雨の
遠くはるかな目標です。