真璃

『マイペース』
期待の三連休初日。
過ごし方は
ふつう!
おうちでごろごろする休日ね。
ああ……
どうしてこんなふつうなことに!
いいんだけど。
春風お姉ちゃまったら、刺激もなく平凡にしていたら
王子様が退屈してしまうんじゃないか
春風だけを見ていてくれないんじゃないか!
うろたえたり、鼻歌でお菓子を作ったりしているのだけど
女はもうちょっと自分に自信を持たなきゃ!
愛してくれている人がいる。
他の何にも目を奪われず私だけを。
それだけの輝きが
私にはあるのでしょう?
ちゃーんと自分のことも、他の何も替えがきかないと叫ぶ相手の気持ちも
わかってあげないとね。
マリーはフェルゼンといるだけで満たされて、願いはそれだけ。
にぎやかなおでかけや、食べ歩きをしたり宝石を見て回ったりするのだって
恋人たちにはあってもいい時間だけど
いつもそればっかりではないわよね。
求めているのは、心が通じ合う本当に大事な時間。
ここが夕日の丘であろうと
鈴の音が近づく雪の夜でも
おすもうや子供番組を見ながら寄り添うお部屋であってもいいのよ。
だって私たちは
お互いを一番に愛し合っているのだから。
……
ところで!
マリーが呼んで、フェルゼンが手をとってキスをしてくれて
二人で過ごすのはいいのよ。
キスは真似事で、したような気分で納得していたとしてもいいでしょう。
優しいフェルゼンがいてくれるんだから
無邪気なちびっこたちがひざにも飛び乗ってきて、腕にも絡みついてきて
今考えたばかりの遊びやお歌に誘うのも微笑ましいと思うわ!
フェルゼンのきらきらした瞳はいつもマリーを追いかけて
ずっと映していたいと願っていることを知っている。
まだフェルゼンが気がついていなくてもわかってあげるようでなくては
あなた一人だけの女性として充分とは言えない。
それなのに
あなたのあたたかな声に耳を傾けて、目を閉じて
うとうとしていると
夢の中に現れるフェルゼンとだけ
戯れの楽しみにいるようで。
フェルゼンも知っているのでしょう。
マリーの幸せな夢に現れるすてきな男性が
世界でただ一人のかけがえのない人で
胸が心地よくドキドキするのも
離れると、寂しくなって心細く震えてしまうのも
小さな女の子の心の中はあなた一人に動かされているという事実。
今日はずいぶんお部屋で一緒に遊んで、離れて寂しいのはトイレのときくらいだったけれど
寂しいものは寂しいの。
仕方のないことであっても……
永遠にと誓い
いつもマリーだけのものにするなど許されない願いであっても!
それでフェルゼンがちょっと離れているあいだ
おかきなんかを見つけて戻ってきてくれるときに
マリーが手を伸ばして触れているのは
いつかこの部屋で過ごした思い出の中や
気まぐれに形を変える甘い雲のような夢の中にいるかわいいフェルゼン。
ああん
だめだめ!
本物がいいって知っているのに
ちゃんとたくましい実物がいつも隣に笑っていてくれる休日なのよ。
本物は、はっきりしない幻のフェルゼンなんかとは比べ物にならない
愛しい人なんだからあ!
一瞬だけ
あなたじゃない夢の中に遊んでいてごめんね?
でもフェルゼンも悪いのよ。
せっかくずっと一緒のお休みに
見つめあう目と目がちょっと気が散った瞬間に
マリーに確かな二人の絆を
形にして見せてくれるのをのんきに怠ったりしたら
もう許せない!
あなたといたいのに
一人で妄想しているなんて
そんなことさせたらいけない
寂しがり屋のマリーなの。
退屈はしないけれど
やきもきはする
恋人たちのしなやかな時間。
すぐに戻ってくる約束でくちびるを奪うのはどちらから?
他の何も目に入らないと
態度で示すチャンス。
微妙な空気でそれに気がついたら
いつだって逃してはいけないわ。
あら?
フェルゼン、あのカレンダーにある文字は何かしら?
ちょっと横を向いてね。
恋の色に淡く染まった頬が隙を見せたら
どうなってしまうのか
教えてあげる瞬間だわ。
体で覚えたことって、なかなか忘れられないものよね。
うふふ……ほら、逃げないでね。