氷柱

『めんどくさいめざめ』
今日は土曜日。
学業に励み、輝く将来を目指す
清く正しい生活も
ひとときお休みね。
とはいっても
中学生は大切な時期。
ただ寝転がって
一日を怠惰に過ごすなんて
まったく私には考えられない休日の過ごし方だわ!
一秒も無駄にしているヒマはないと思うの。
自由な時間だからできることって
いっぱいあるでしょう?
その全てが私の未来を切り開いてくれる……
とは限らないけれど
たまにはあるんじゃないかな。
ああ、やっておいてよかった
青春の日々の苦労は無駄ではなかった
みたいなのが。
週末をだらだら過ごすのも、役に立つ時間にするのも自由──
誰でも勝手に言えることだけど
私にはそんな自由はなくていいの。
がむしゃらになって
汗を流していればいい。
きっとそれが私の一番したいことじゃないかな。
そうよね。
朝から下僕の気の抜けた顔に出会って
しっかりしなさいって
おしりをつねることからはじまる寝ぼけた土曜日だとしても
だからといって何も気が乗らないつまらない日にしていい理由にはならない。
家族にちゃんとしっかりした人がいることを
下僕に見せてあげる──
どんな経験もいい刺激に変えていく
とてもすてきな考え方じゃないかしら?
冷たい雨の降る寒い朝になって
いつもより長い時間タンスをあさって
少しはすっかりとした見栄えになる着替えを出したり。
そう、私はどてらを羽織ってこたつで教科書を広げる試験勉強なんてしないの。
それからこんな日くらいはせめて暖かい食事を作るお手伝いでもしようと
慣れない台所作業を
皮むきからあくとりから
気分が盛り上がるお皿選びやら
なんとなく日が差さないさびしい日には大事だな、とか
あれこれ細かい片づけからしているうちに
ちょっとのあいだの休憩のつもりが
真っ暗になるまで寝過ごした午後は
何かの間違いなんだと思うわ。
顔を洗ってしゃっきりした頭で
ほっぺたをつねればすぐに覚める夢。
だから──
暖かい部屋で毛布を羽織ってまどろみながら
小さい子の声で目覚める
ゆっくりした休日なんて
堕落した下僕が好きそうな過ごし方をしてしまったなんて
私は認めない。
認めないから
すぐ目が覚める。
論理的に何もおかしいところはないわね。
私の下ごしらえと、蛍ちゃんの手間をかけた調理で完成した
ちょうどよく味の染みた和風だしの煮物だけは
うたかたの夢にしてしまうにはわずかに惜しい幻だけどね。