立夏

『リズム』
調子ハズレのうたごえ。
鍋のうらっかわをおたまで叩く音。
さわぎがはじまって
理由もなく楽しくなるよ。
おどれ、おどれ!
もう誰だって落ち着いていられないよ。
むずかしいことでなやんでいても
先にやらなきゃいけないことがあっても
なんにも気にならないよ!
おちびたちが大声をだして待っていたら
疲れ果てるまで遊んであげなきゃ
おさまらないよ。
うるさくってお勉強できないって氷柱ちゃんがすねるの。
楽しくなってお勉強どころじゃない!
ってことだネ。
あれ、ちがう?
いいの!
だいたいそうなる。
ゆっくり落ち着いたきゅうけいタイムや
香りとアロマのコーヒーの味だって追いつけないよ。
思い出せば、みんな小さい頃は子供だったから
氷柱ちゃんも意味もなく鍋を叩いておどっていたし
リッカも今でも普通にするよ!
おだいどころは春風ちゃんと蛍ちゃんが守る城。
うたっておどるのも
お鍋で煮込むのも好きな春風ちゃんたちは、ちっちゃい子が踊るのはびみょう。
あぶないとがったものだってあるんだよ。
火も使うし
毎日おおいそがしだから
すぐ、遊んでいる子を追い出そうとする。
でもほら。
だめです! って頭を叩かれたところで
面白いおもちゃがきらきらしているように見えるおなべの山。
よくわからない子たちだから
すきを狙ってなんでもかんでもおもしろがるに決まってる。
ちょっとお熱があって眠っていたユキちゃんが
いつもの元気を取り戻した夕方。
まだ踊りだすには早いからだだけど
聞かせてあげたいよ。
ユキちゃんには明るいうたごえが好きな家族がいっぱいいて
誰かが退屈していたり
難しい顔をしていることは
何があっても許しません!
ユキちゃんに遊んでもらえなくてさみしかった子たちと
一日眠っているしかなかった分を取り戻して元気付けてあげたい子たちと
ついでに便乗して騒ぎたい子たちみんなで
ありあまった元気をぶつける場所が
今日はここにしかなかったとしても
たまにはそんな日もあるのです。
あるってばある!
いったいなにごとだ、ってみんなが集まってくるくらい
かんかん力強く打ち鳴らすほそい腕たち。
女の子はたくましい。
うるさいーって見に来た氷柱ちゃんが一瞬あっけに取られたら逃がさない。
手をとって誘って
元気な歌を巡って回って
遠くから耳に手を当ててベッドで聞いているユキちゃんが
ふわふわおふとんとやわらかなパジャマに包まれたちっちゃなおなかで
やさしい小さな歌を合わせているのに気がついたら
みんなうれしくなるんだもの。
意味もなく唐突にはじまって
渦になって大人たちを巻き込むダンス。
新しいおもちゃを見つけて飽きてしまうのもあとわずかだって
おねーちゃんたちの目を盗んでやっぱり同じような遊びをしていたリカはもちろん知ってる。
だからこの騒ぎに乗っからない手はない。
楽しいことが始まったらすぐに見つけて
大嵐に巻き込まれたみたいでも
怖がらないで特に気にせず回りだす大胆な魂。
ちょっとびっくりすることでも
逃すのはもったいないんだから。
リッカも鍋を叩いて歌ったら
怒られないうちに逃げ出します!
あーはんにゃーふんにゃー
ほい!
きめっ。
つまらない顔していないで一緒に騒いじゃおう。
リカの隣でめちゃくちゃに歌って
仲間になれるのは今だけだよ!
あとはもう2、3日はあきちゃってこんなことないんだから!