『真夏のかがやき』
お空に輝くのは、まぶしくもえさかるお日様と
冷たく白い光をはなつお月様。
みんなはあったかくてきらきらしたお日様のほうが好きだっていう子が多いみたいで
もちろんマリーだって
大人のお姉さんになる時は
あんなふうにいつも笑顔で
くもりでも雨でもくじけずに、明るくいるのがいちばんかわいいはずよ!
もうばっちり今から決めているんだけど。
それにしたって、たまに真っ暗な夜空を見上げたときに
っていうのは、マリーはまだちっちゃいから
そんな暗くなる時間までお外にいたらいけなくて
たまたま窓から見あげたり、このあいだのおだんごの名月のときくらいなんだけど
でもそんなふうにたまに見あげると
銀色の気高い姿でおすまししているお月様も
女王様って雰囲気があって
吸い込まれるみたいに
胸がきゅーんってなっちゃうわ。
目を閉じても
おふとんに入っても
胸に忍び込んで芽を出したその魅力は消えないまま。
人をどきどきさせて
何様のつもりかしら!
そんなにいつも見るものじゃないけど、お月様だっていいわよね。
観月もやっぱり
どばーっと派手なのより
しっとり落ち着いているのが好きみたい。
優しく淡い光の蛍は
誰に見てもらえるかもわからない静かな踊り。
ちらちらとまたたく星がきらめいて
黒い上品なカーテンのように深い深い夜が海のように広がっている。
観月は誰も知らないうちに
いつにまにか一人で見つけて
こういうものがあるよって
みんなをひきつけちゃう。
頭がいい子で
するどい視点。
それから子供はみんな同じで
いつも好奇心いっぱい。
見たこともないことばっかり探している。
マリーはお庭でちびっこが作る輪の中心になって
新しい遊びや、元気なまぶしい笑顔のありかを求め続けている。
観月はおうちでよく本の虫。
かびくさい巻物を解いてくんくんして
お気に入りのうれしい匂いがするっていうの。
えーっ……
吹雪ちゃんもにおいをかぎつけてやって来て
わかります
特別な匂いです!
だって。
わからないわ……
好きなのってそこ?
でも、本を広げたら目がいつもきらきらしてる。
すごく真剣に字を追って
背筋を伸ばして、一瞬ちょっと話しかけられそうにない感じ。
はっ!
だめだめ!
この子はマリーのかわいい妹の観月なの。
たまにかっこよくたって
化かされないようにしなきゃ!
とか考えているうちに
集中しすぎて観月も猫背でだらーんってだらしない姿勢になっちゃって
しっぽがのぞいてしまっているんだけど。
背中を叩いて、しっかりしなさいって声をかけて
観月がうーんって深呼吸した隙に
お外に手を引いて仲間に入れてしまうのがいつものマリーの強引な手口。
今日もお昼過ぎまではそんなふうだったから
やっぱり観月はまだまだマリーが引っ張ってあげなくちゃだめね!
青いもやしみたいにひょろひょろになってしまわないように
美人になるには適度な運動だって必須よ!
遊びたい盛りのちびちゃんならなおさら。
素直についてくる小さい手をにぎりながら
マリーもお姉さんらしくしっかりしようって思っていたの。
ご飯のお支度の時間がきて
お手伝い当番は本日はマリーただ一人が担当だと気がつくまで。
三角巾をきりっとしめて
おいもをつぶして
マヨネーズやら、ハムときゅうりのせんぎりをまぜまぜ。
きっと夜空のお月様みたいにいぶし銀の裏方作業だったと思うわ。
これはこれで
マリーの新たな輝きにフェルゼンも気づいてしまう?
罪なマリー……
いつもあなたのためを思って
地味な仕事もがんばれるのよ!
こういうの、ちょっと楽しいんだから。
しっかり一人前にお仕事を終えて
ようやくお庭に戻ってみたら
なんとあんなに頼りなかった観月がちびっこたちの輪で真ん中になって
にじちゃんや青空ちゃんたちとはしゃいでる。
なーんだ。
子供だと思っていたら
いつの間にか成長して、ずいぶん大きくなったものね。
そこにいたのはマリーのぜんぜん知らない
いつも日陰でふにゃふにゃしているだけではない観月。
だけど、まだまだね!
何があってもめげないきらきらした笑顔なら
マリーにはかなわない。
だって今日だけじゃなくて明日もこれからも
ずーっとフェルゼンと一緒に輝き続けると約束したの。
この胸に太陽のように燃える熱い誓いを刻み込んでいるのだから!
誓いの指輪はまだだけど
まあ、そんなものは将来に形として撮っておく記念になるくらいのものだし
いちばん大事なのって
いつも輝くハートよね。
観月がこれからどんどん明るいお日様みたいにかわいくなっていったとしても
マリーが実は地道なお仕事もお気に入りで
あんまり表に出て行く日ばかりでなくたっていいの。
いつもお日様は熱くまぶしいのだと
気付いている人が、すぐ近くにいるの。
つまらなくてさみしかったりして暖めてほしいときは呼んでね。
マリーはいつもそのために気高く美しくあろうとしているのだから。