『わずかに』
子供の頃は
自分ではそんな自覚なんて全然ないのに
いつのまにか大きくなっていて
昨日より少し広がった視界の中を
なんにも意識しないままで好き勝手に歩いてる。
たまにまわりが先に気がついて
背が伸びた?
計ったら伸びていた!
だっこしたら重くなった!
なんて言われたって
重くなったのも育ったのも
なんにもしていない気がつかない間の出来事だから
やったー!
よくわからないけど!
みたいな。
わけもなく海晴姉たちと手を取り合って踊っているだけだった思い出。
いや、そもそも右から左の耳へ自然に通り過ぎて
当たり前のようにすぐ忘れて。
特に何にも考えていないまま
ずっといつまでも変わらない子供でずっといられるような気がして
ある日、何の前触れも理由もなく
あれ?
もしかして大きくなったのだろうか。
立夏がでたらめに走り回って追いかけるときや
遠くに電車を見かけて
誰にも教えられないのにあっというまに見やすい場所に駆けつける麗がいて
守るみたいにして隣に立っていたら。
そうそう、
なんだか走りたくなる時ってあるもんな。
って。
今は一人で好きなように走るんじゃなくて
この子たちを後からさんざん汗をかいて追いかけたり
気がついたら背中にぱっとじゃれつかれるくらい近くまで追いかけられたりしている
なんて、ついさっきまでは考えもしなかったようなことが
ぽっと頭の隅に浮かんで
そのまますぐに、それどころじゃないって忘れている。
くるくる目が回りそうな毎日。
うっかりしたら、どこまでも加速をつけて飛び出してしまいそうな妹たちがそばにいて
そのうち、この子たちも同じようなことを考えて
ある日ふいにびっくりしたり、すぐ忘れたりするのだろうか。
立ち止まって眺めていたら後ろから隙を見て遊んでほしがっている元気なやつに飛びつかれて。
成長したなんて自覚がこれっぽっちもないまま
みんなと過ごして、そういうものだと思って
ただ普通に過ごしていたら
もう残念ながら、あんまり身長が伸びるのは期待できない大人になっていた。
背を測ってもらうだけで面白くて転がりまわっていい
楽しいことが一つ減っちゃったな。
たいして残念な気もしないで、そんなふうに笑っている。
何も考えていない昔と、サイズはだいぶ変わって
新しいお気に入りの服も増えても。
ぼろぼろになるまで使い込んだはずがきれいに手直しされたお下がりがチビたちに届いても
私は大きくなったって
まるっきり別の生き物に生まれ変わったりしないから
また庭を走り回ったら、また泥だらけになるまで何にも気にしないで
海晴姉や春風に怒られたり笑われたりするような。
結局いつもそんな気持ちが変わらないまま
お姉さんぶって、さくらや虹子たちと遊んであげている。
あんまりえらい先生にはなれないみたい。
もっとしっかり教えてくれる先生についたら、うちのチビたちも鍛えられるんだろうけど
私はゴールで待っていて、手を広げてこっちだよって。
一緒に砂まみれになって転がりながら喜んであげたいだけのお姉ちゃん。
なんにもできないのに
いつも楽しく笑っているだけの──
だから、いざメジャーを取り出して計ってみたら
さくらや虹子や育ち盛りたちががんばった分の成長より
一ヶ月で一センチだから、一番伸びた青空より一ミリ。
誤差かもしれないし
まだまだ子供だって、数字でもはっきり見えてしまうのかもしれなくて
どうしよう?
とりあえず
やったー!
一センチは最近なかった記録だな。
よし、お前も遠慮なくみんなみたいに喜んでいいんだぞ。
ヒカルちゃんが伸びた!
ヒカルお姉ちゃんが伸びた!
私が伸びた!
楽しいな!
誤差かもだけど!
たぶん何がこんなにうれしいのか
誰もよくわからないまま、みんなで踊っているから
そういうものだということで
特に難しいことは考えないでいいんじゃないかな。
うん。
私もきっと、これからまたオマエが大きくなったら
なんだかうれしいような気がするから
そうなったらいいな、とか
好きなことばかり言いながら
踊っていてもいいみたいだから。
たぶん、今日はそういう日なんだろう。