星花

『またたき』
午後からだんだん暗くなってきて
雨かなあってそわそわしながら帰ってきた道。
あんまり厚い雲を気にしすぎて
足元がおろそかになってはいけません!
ちょっとつまずいちゃった。
怪我はしないけど。
運動神経のいいヒカルお姉ちゃんでも、ときどき擦り傷を作ってしまうの。
雨ばかり怖がっているわけにもいかないの。
気をつけないとですね。
というわけで無事に帰ったら
うがいてあらいをすませて
暗いお部屋の電気を今日は早めにつけたら
すっきりした服に着替えて。
ぽつぽつ降り出した雨の中だから
夕方の時間はずっと家にいるのです。
遠くのお部屋から届くにじちゃんの歌は
どこかで聞いたことがあるような
そうでもないような。
オリジナル?
立夏お姉ちゃんが秋のファッション教室を開くので
きっと歌も踊りもあるだろうと期待して
夕凪ちゃんは帰ってきたと思ったらすぐ直行したみたい。
おしゃれもダンスも女子力アップの大事な花嫁修業だーって言ってたけど。
そういえばお花と踊りが古くからの花嫁修業だと聞いたことがあったような?
でも立夏お姉ちゃんの踊りでいいのかな?
星花もなかなか女子力を誇れるほどではなくて
たまにはこんな修行に参加するのもありなのだろうか?
本棚から自分の机に積み上げた数冊の本を見つめて
うむむ?
などと集中力に自信がないまま読書していたものだから。
なかなかお気に入りのシーンにまでたどりつかないうちに
そっと机の上に閉じた本の表紙を眺めつつ。
でも楽しそうにしている声が聞こえてきたのは安心しちゃった。
立夏お姉ちゃん先生はちびちゃんたちが大好き。
臨時講師に予定されているという天使家ファッション界の新星ことマリーちゃんも
しっかり者だとわかっているけれど。
先生方はときどき、面白いことが好きなあまりにはしゃぎすぎて
お姉ちゃんたちがびっくりするようなのです。
楽しいことを探して、追いかけていけるのは大切な才能。
だけどまだ小さいから、行きすぎたときは節度を持つよう心がけると良いのだそう。
立夏お姉ちゃんもまだ子供っぽい?
そうなのかな?
元気なお姉ちゃんなのは間違いないところなんだけど。
学ぶこともいっぱいあるはず。
だって明るい歌声はまだ続いている。
放課後こそ読書の時間、と決めた心が揺れています。
そういえば吹雪ちゃんはどこに行ったんだろう?
かばんはちゃんと片付けて置いてあるし、部屋に姿がないのは
まさか例のファッション教室をのぞいているのでは……
そればかりか、立派に勉強し、女子力を鍛えて戻ってくるかも……
昨日から夕方は寒くなり部屋にいるユキちゃんが退屈そうだという話もしていたから
様子を見に行ったのでしょうか?
うん、吹雪ちゃんも妹思いのお姉さんなのでした。
みんなすごいなあ
人にしてあげられることがたくさんあって……
もしちょっと晴れてきたら庭に出たい星花は
一緒に体を動かす遊びのことならたくさん学んでいるから
ちゃんと教えてあげられるのだろうか?
色が濃く、だんだん冷たい板のように景色を写さなくなった窓と向き合って
ぼうっとしているうちに
どうやらうたた寝をしていた星花は
目を開けると知らないうちに肩からかけられていた毛布に
いつのまに!?
おどろいちゃった。
三国志にあこがれて
すてきな将軍と野を駆ける将来を夢見る星花は
どうやらまだまだ隙が多くて油断しがちで
みんなに守られている真っ最中。
あたたかくて、こんなに優しいのはお兄ちゃんが来たのかもしれないなと考えながら
だったらお兄ちゃんを誘って
立夏お姉ちゃん先生が指導する謎のファッション教室の様子を見に行けたらよかったかな、
それともお部屋に一緒にいてくれてお話ができたら。
そしたらぼんやりなんて過ごさなかったのに。
たぶん眠っていたのは短い時間だったけど
これはしまった!
ってなったよ。
星花もまだまだ未熟者なのですね。
優しい毛布はぬくぬくしていて、落ち着くにおいがするの。
まだ小さくて頼りない星花だけど
このぬくもりを道しるべにして進んで行くのかもしれない。
しとしと雨のお天気を暖かいお部屋で過ごす、夕暮れのできごとでした。