綿雪

『甘いきらめき』
雲がかげって
また日が差して。
きのうと比べたらそんなにいい陽気ではなかったかもしれないけど
ユキにはぴったりの快適なひざし。
暑くもなく寒すぎもせず
強い風もまぶしすぎる光も怖くはない。
お庭の風景は入れ替わりはじめて
昨日までは見たことのない赤い花がひらいている。
触ってみたら溶けてしまいそうに柔らかく見えたから
指でつつくのはやめておかなきゃ。
気持ちのいいそよ風の中でお散歩をするにはいちばんの夕方。
学校帰りでも疲れてお休みはしなくても別にかまわない頃なので
おやつの時間に、ホタお姉ちゃんがユキの授業の話を聞きたがっても
あとまわしで
お外を歩こうよ。
うれしくなるに決まっているの。
だって今日はこんなに暖かい。
子供はお外で遊ぶのがちょうどいい日だと思います。
あまいおいものおやつのにおいで出て行ったら
何もかもまぶしくて強い夏では、ユキはすぐ虫に食べられてしまうかもしれない。
あの時期は油断のできない大きな虫がどこにでも潜んでいたもの。
でも今だったら困ることも何もないんです。
穏やかに移り変わっていく季節に合わせて、見るもの全てが準備をはじめたから。
遠い小山の上で、絵本のようなくまさんがはちみつを巣穴にためて
冬を越す支度を考えているはず。
それとも先に、実りの季節を迎えた山を巡っておいしいものを探すのでしょうか?
一日ごとに冷たさを増す風がどんなに吹き付けても震えないですむように
まるくなってあたたかくお休みするための寝床作り。
今のうちから準備しておかないと
どこだって、のんびりしていたら進まないものだから。
おうちではお兄ちゃんとお姉ちゃんたちが進めるお支度。
花壇の色もしっとりつつましい小さな花びらで染まるようになって
夏の香りでいっぱいだったお日様も新しい気分の装い。
せかせか急ぐ生き物も、羽を広げて風に乗る子たちとか
小さな種を落としてうつむいている草も、見上げる高い木も
ゆっくり変わっていくのが
ユキの目にも見えるから。
こんなに楽しそうな日を
お庭にあるおもしろい景色を眺めて過ごさないとつまらないでしょう?
かけっこが上手じゃなくても、とんだり跳ねたりが苦手だってかまわない。
うれしくなるのはお庭を歩くだけで
知らなかった眺めがたくさん広がるから。
もちろんユキは気がついた。
ドキドキするだけじゃない。
だんだん薄い黄色に変わろうとしている葉っぱを透かして
そっと地面に落ちているキラキラした木漏れ日の下に立つと
どこかで覚えのある懐かしい記憶が静かに揺れて浮かびだす。
覚えているのかな?
そんなにはっきりと?
どうやら去年も、この木の下の同じ場所にいて
優しくそっと暖めてくれようとするこんな日差しを浴びていたこと。
去年からいっぱい疲れてしまったり、休まないといけない日も多くあったけれど
それでもここにいて楽しかったことだけ覚えている。
あんまりぎらぎら激しい夏をどうにか乗り越えて
深呼吸で体を伸ばすみたいにやっと息をととのえた頃。
同じようにここに立っていたあの時から
なんともういつのまにか一年が過ぎて
ユキはまた優しくて幸せな秋を迎えたのでした。
もうじきもっと体が丈夫になって、いつでも好きなときに好きな場所へいけるようになる
そんな願いに少しは近づいているのかな?
今日は小さい子みたいにはしゃいで、歩き回ったから
まぶたは閉じかけて、足から何から全身で毛布を呼んでいるよう。
もう悪い夢を見ることなんて考えもしないでぐっすり眠ってしまいそうです。
もしもユキが明日の朝はわるい子で、ずいぶんおねぼうなんてしてしまったら
今日の一日が楽しすぎたせいだから。
あんまり怒らないで起こしてほしいの。
お願いです。