真璃

『ミュージカルハウス』
カレンダーに並んだ赤丸の囲み。
祝日!
祝日!
その次もまたその次の日も妥協することのない姿勢で
だいぶ長いお休み。
こんなにいつまでも続くようでは
だらだらしていたら、うっかり溶けてしまうほどの長期間。
根を張ったみたいに全身でフローリングにへばりつく姿が見える……
めりはりつけて過ごしましょ!
うれしいことに週間天気予報では晴れ続き。
海晴お姉ちゃまの予報で大丈夫かなあ?
むやみに疑うと怒られちゃうけど。
こらーっ!
がおーっ!
つかまって、わしゃわしゃされちゃうけど。
もう、レディーに不躾なことばっかりして!
こどもあつかいしないでほしいのにね!
だからここだけの話だけど、
でも普段から週間の予報はあんまり自信がないからって言ってるのは
海晴お姉ちゃまなのよ。
それなのに今朝のお天気番組では
つまらないことは全部忘れましたみたいにニコニコして
ついにやってくる連休に
晴れの幸せをお届けいたします!
お天気棒を掲げる手を気持ちよくピシッと伸ばして。
晴れマークよりもずっと晴れやかな笑顔。
あいにく今日は傘が必要になるところもあります!
と言ったって、お出かけ前の小さい子みたいに変わらぬ明るい笑顔。
だから疑うのもつまらないから
海晴お姉ちゃまがこんなにうれしそうに言うんだからそれでいいか!
ということで
晴れるとして計画を立てようと思います!
まあ……
いちおう、いざというときのことも考えた上で!
といっても特に今から予定が入っているということもないんだけど。
ちょっと足を伸ばしておいも掘りもしているところに行こうか、みたいな話は出ているし
この連休はどこだって
もりあがるチャンスは何があったって逃さないとばかりに
ニュース番組でもおでかけ特集のコーナーは充実していたもの。
お天気は言うことなし!
あとはそう……
せっかくだからおうちでまったり派のみんなを
どれだけ味方につけるかの駆け引きね。
うっかりするとマリーも取り込まれてしまう魅力を持ったおうち派。
そりゃあ、ぜったい縁側はどこに出かけるより暖かくぽかぽかするに違いない。
集まっておうたを歌ってもいいのよね。
よそではできない。
たったひとりのフェルゼンを取り合いっこしても
移動に時間を奪われない分、ちゃんと平等にみんなの相手をしてもらえるかもしれないわ!
まあ愛しいただひとりの人を並んで順番待ちはできないわけで
少しでも長く自分だけを見つめてほしい、
と、思う自然な気持ちが
誰にも恋人を譲りたくない狂おしい日々に変わることだってある。
マリーも幼稚園に行って会えない間はさみしくて
会えない時間が二人の愛を強くすると信じて──
耐え忍ぶ強さを願うだけだった。
私の中にないものだから。
あの人がいない時間も笑っていられる力……
思いがいっぱい詰まった胸の中のどこにもない。
祈ってどこかから降ることを思わなくては生きていけない。
まあ、生きていけないはおおげさかな!
離れているのは学校の間だけだし。
ちょっとのがまん。
寂しさに胸は詰まるけれど
ほんのちょっとなんだから。
きっとフェルゼンもマリーのことを考えているはずだから
離れていても結ばれている。
半身が裂かれたように身もだえしようとも
きっと会えなくたって平気……
あと2、3時間くらいなんだから。
そうやって乗り越えてきた金曜日!
でもやっぱり思うけど
会えないときより、会っているときのほうがきっと愛を育むはずなんだと
触れ合う手と手、交し合う視線と
幼稚園と高校のそれぞれの他愛ないできごとのおはなしをしているだけで
二人を結ぶ絆が強く育つことを
マリーはそう確信できるわ。
いったいこれまで、何のためにこらえてきたのやら!
チャンスを無駄にしちゃった。
もっと早く、いつも会いたいと言えたらよかったのに。
せめておでかけ前にも、一分でも数秒でも恋人同士の時間を増やせたかもしれないのに。
その時、愛の言葉をささやいていたのか
はたして見詰め合うだけで満足な二人だったのか……
それはわからないけれど。
でもまあ、フェルゼンを思う時間はいつでもロマンティックだと思うの。
だから今まで過ごしたことを悔やんだって仕方ないわ。
それよりもっと前向きに考えて
こんなに情熱的な日々を過ごしてついに同じ時を共にできる二人の物語は
確かにちょっとドラマがあるような気もするし
これこそ今まさに
歌をつけて、踊りを振りつけて舞台劇にして残してもいいのではないかしら。
悲しみと儚さに彩られ、勇気と情熱を積み重ねて
最後にはもちろんハッピーエンド。
ちょうどたっぷり時間もありそうだし。
さくらや観月と情熱的な歌と踊りをしてみたくても
幼稚園のおゆうぎみたいになってしまうんだもの。
まあ園児だからそれでいいんだけど……
かわいいのはいいのよ。
でもマリーは
ただフェルゼンと歌いたい、
伝えきれないいっぱいの胸のうちを踊りに乗せて二人で奏でたい。
あなたとだけ。
暇をもてあましてだらだらしそうな予感より
ずっと楽しそうな気がするの!
そうしてくれたら、マリーは情熱的にどこかへ連れ出してほしいなんてぜいたくは言わないわ。
あなたを思い、あなたと過ごす時間がマリーのすべて。
と言い切るには、マリーはまだちっちゃいけど
でも連休はせっかくだからフェルゼンと一緒に過ごしたいの。
きっと願いはそれだけ。
愛を貫き通す永遠の誓いを
ただいつも伝え合いたいだけなの。
夏の終わりの残暑の頃に、突然与えられた小さなバカンス。
この機会に、どうかマリーの小さな夢をかなえてね。